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創業ストーリー 経営者向け

ハワード・ヒューズ|炎上する機体から生還し、病院のベッドで設計図を描いた男

ハワード・ヒューズ|炎上する機体から生還し、病院のベッドで設計図を描いた男

1946年7月7日、試作偵察機XF-11のテスト飛行中にオイル漏れでプロペラが暴走し、ビバリーヒルズの住宅街に墜落炎上。鎖骨粉砕、肋骨多数骨折、左肺圧壊、全身に三度の火傷——生存確率50%。海兵隊のウィリアム・ダーキン軍曹が炎の中から引きずり出さなければ、確実に死んでいました。しかしハワード・ヒューズは病院のベッドで目覚めると、ベッドの設計が気に入らないと言い出し、工場からエンジニアを呼んで病院用ベッドの設計を始めたのです。

19歳の決断——法廷で経営権を奪い取った相続人

ハワード・ロバード・ヒューズ・ジュニアは1905年12月24日、テキサス州ヒューストンで生まれました。身長193cm。父ハワード・R・ヒューズ・シニアは、1909年に石油掘削用のシャープ=ヒューズ・ロータリードリルビットを発明し、ヒューズ・ツール・カンパニーを設立した実業家です。この発明の革新的な点は、ドリルビットを「売る」のではなく「リース(使用許諾)」したこと。知的財産を手放さずに収益を最大化するビジネスモデルでした。

少年時代から機械への関心は尋常ではありませんでした。11歳でヒューストン初の無線送信機を自作14歳で初めての飛行レッスンを受けます。しかし1922年、母アリーン・ゲイノが子宮外妊娠で急死。わずか2年後の1924年には父が心臓発作で亡くなり、18歳にして孤児となります。

ヒューズは裁判所に自らの法的成人認定(emancipation)を申請し、19歳で認められると、親族が保有していた25%の持分を買い取り、ヒューズ・ツール・カンパニーの100%支配権を握りました。相続を「待つ」のではなく、法廷で「奪い取った」のです。

この決断が、のちに航空・映画・ホテル・航空会社へと拡大する巨大ビジネス帝国の出発点になりました。

(出典: Wikipedia「Howard Hughes」Wikipedia「Hughes Tool Company」

世界速度記録の連続更新——「空の王」への執着

ヒューズの情熱が最も凝縮されたのは「空」でした。1930年、ハリウッドで第一次世界大戦の航空映画『地獄の天使(Hell's Angels)』を監督・製作。予算280〜400万ドル(当時としては破格)を投じ、実物のWWI戦闘機を約50機収集75人のパイロットを雇用。サイレント映画として撮影した後、トーキーの時代が来るとゼロから撮り直しました。

しかしヒューズにとって映画は序章に過ぎません。自ら航空機を設計し、自ら操縦桿を握って世界記録に挑み続けます。

  • 1935年9月13日 — 自社設計のH-1レーサーで陸上機世界速度記録 352mph(566km/h)を樹立。個人製作の航空機が世界速度記録を保持した最後の事例です
  • 1937年1月19日 — LA〜ニューアーク間を7時間28分25秒で飛行し、大陸横断速度記録を更新(平均速度322mph/518km/h)
  • 1938年7月14日 — 世界一周飛行を91時間(3日19時間17分)で達成。ウィリー・ポストの1933年記録(186時間)を半分以下に短縮しました

世界一周飛行の成功後、ヒューズはニューヨークで200万人の市民にパレードで迎えられました。しかし彼にとって称賛は目的ではありませんでした。次の速度記録、次の航空機設計——「もっと速く、もっと高く」という執着だけが、彼を突き動かしていました。

(出典: Wikipedia「Hughes H-1 Racer」Wikipedia「Howard Hughes - Aviation records」

炎上する機体から生還——病院のベッドで設計図を描く

1946年7月7日、ヒューズは自社開発の試作偵察機XF-11のテスト飛行に臨みました。飛行中にオイル漏れが発生し、右側プロペラのピッチが反転。制御不能に陥った機体は、ロサンゼルス・カントリークラブのゴルフコースへの不時着を試みますが届かず、ビバリーヒルズの住宅街に墜落して炎上しました。

負傷は壊滅的でした。鎖骨粉砕骨折、肋骨多数骨折、左肺圧壊(心臓が右側に押しやられるほど)、三度の火傷。医師は生存確率50%と宣告しました。燃え盛る機体から彼を引きずり出したのは、たまたま近くにいた海兵隊のウィリアム・ダーキン軍曹でした。

普通の人間なら、生きていることに感謝して安静にするでしょう。しかしヒューズは違いました。

意識が戻ると、まず病院のベッドの設計が気に入らないと不満を述べました。そして工場からエンジニアを病室に呼び出し、30個の電動モーターで6つのセクションを制御し、温水・冷水が循環する病院用ベッドの設計を始めたのです。皮肉なことに、この病院用ベッドを彼自身が使うことはありませんでした。

そして墜落からわずか8か月後、ヒューズは再び操縦桿を握って空に戻りました。

(出典: Wikipedia「Hughes XF-11」Wikipedia「Howard Hughes - XF-11 crash」

「飛ばない」と嘲笑されたスプルース・グース——飛ばして黙らせた男

第二次世界大戦中、ドイツのUボートによる大西洋の輸送船撃沈が深刻化し、米政府はヒューズに巨大飛行艇の開発を依頼しました。H-4ハーキュリーズ——通称「スプルース・グース」。翼幅はフットボール場より長く、戦時中のアルミニウム不足のためバーチ材(白樺の合板)で建造されました。

開発費は2,300万ドルに膨れ上がり、戦争終結後も完成しない機体に批判が集中します。上院議員オーウェン・ブリュースターは公聴会でヒューズを公然と嘲笑し、「飛ばない木の飛行機」と呼びました。

1947年11月2日、ロングビーチ港での滑走テスト。報道陣や見物客が見守る中、ヒューズは「滑走テストだけ」と言っていたのに、突然機体を高度70フィート(約21m)まで浮上させ、約1マイル(1.6km)を時速135mphで飛行しました。批判者を、飛ぶことで黙らせたのです。

H-4ハーキュリーズが飛んだのはこの1回だけです。しかしヒューズはその後も機体を完璧な状態で保管し続け、毎年100万ドルの維持費を払い続けました。「いつでも飛ばせる」状態を保つこと自体が、彼の矜持でした。

(出典: Wikipedia「Hughes H-4 Hercules」

中小企業経営者が学べること

  • 知的財産は「売る」より「貸す」 — 父が発明したドリルビットを「販売」ではなく「リース」したビジネスモデルが、莫大な継続収益を生みました。特許・ノウハウ・技術は、売り切りではなくライセンスモデルを検討する価値があります
  • 危機の中にこそ改善のヒントがある — 瀕死の状態で病院のベッドに不満を感じ、その場で新しいベッドを設計した。最悪の状況でも「もっと良くできる」と考える視点が、イノベーションの原点です
  • 批判には「結果」で答える — スプルース・グースを「飛ばない」と嘲笑されたヒューズは、言葉で反論するのではなく、実際に飛ばして見せました。口ではなく成果物で証明する姿勢は、中小企業が大企業や行政と渡り合う際の最強の武器です
  • 事業の支配権を手放すな — 19歳で親族から全株式を買い取り、100%の支配権を確保した判断が、のちの自由な意思決定の土台になりました。出資を受ける際も経営権の希薄化には最大限の注意を払うべきです

まとめ

ハワード・ヒューズは19歳で法廷に立ち、親族から会社の100%支配権を奪い取りました。世界速度記録を次々と塗り替え、墜落炎上して生存確率50%と宣告されても、病院のベッドでエンジニアを呼んで設計図を描き始めました。「飛ばない」と嘲笑された巨大飛行艇を、自らの手で飛ばして黙らせました。

ヒューズの「異常な情熱」は、「どんな状態でも、目の前のものを改善せずにはいられない」という衝動に集約されます。瀕死の病床ですら、ベッドの設計が許せなかった。あなたの事業で「寝込んでいても気になって仕方がないこと」は何ですか? それが、あなたの本当の情熱です。

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

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