親族企業の事業承継で使える補助金・助成金|株式譲渡・相続対策の資金調達ガイド
中小企業経営者の高齢化が進む中、親族内承継・株式譲渡を検討する企業向けに、国が整備した「事業承継・M&A補助金」(旧:事業承継・引継ぎ補助金)は令和6年度補正予算で制度が大幅に拡充されました。補助上限は最大1,000万円(事業承継促進枠)または最大2,000万円(専門家活用枠)に引き上げられており、事業承継税制の特例措置や日本政策金融公庫の融資と組み合わせることで、資金負担を大幅に軽減できます。本記事では、親族企業が申請できる枠の要件から申請フロー、採択率、注意点まで、具体的なデータをもとに解説します。
制度概要|事業承継・M&A補助金とは
事業承継・M&A補助金は、中小企業の生産性向上・持続的な賃上げを目的として、事業承継時の設備投資やM&A・PMI(経営統合)に係る専門家活用費用を支援する補助金制度です。中小企業庁(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が実施しており、令和6年度補正予算で名称変更と制度拡充が行われました。
制度創設の背景には、中小企業経営者の多くが60〜70代であるにもかかわらず後継者が不在という構造的課題があります。この課題に対応するため、親族内承継・従業員承継・M&Aのいずれの形態にも対応した4つの支援枠が設けられています。
| 支援枠 | 対象 | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 親族内承継・従業員承継を予定する中小企業 | 800万円(賃上げ要件充足で1,000万円) | 1/2(小規模事業者は2/3) |
| 専門家活用枠 | M&Aで経営資源を引継ぐ・引継がせる中小企業 | 最大2,000万円 | 1/2〜1/3(条件による) |
| PMI推進枠 | M&A後の経営統合を推進する企業 | 条件による | 条件による |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継・M&Aに伴い既存事業を廃業する中小企業 | 条件による | 条件による |
親族内承継が申請できる枠・要件
親族内承継(親子間の株式譲渡など)が活用できる主な枠は「事業承継促進枠」と「経営者交代類型(Ⅱ型)」です。M&A類型は親族内承継には申請できないため、注意が必要です。
事業承継促進枠の要件
- 中小企業基本法に基づく中小企業者または小規模事業者(従業員20人以下)であること
- 公募申請期日から5年後までの事業承継対象期間内に事業承継を完了する予定であること
- 現経営者と後継者等が共同で作成した「事業承継計画書」を提出できること
- 承継により引き継ぐ経営資源を活用した生産性向上等に係る取り組みを行うこと
経営者交代類型(Ⅱ型)の要件と株式譲渡
経営者交代類型(Ⅱ型)は、親子間の親族内承継や従業員承継を対象とする類型です。事業を譲り受ける後継者には、経営に関する一定の実績・知識が求められます。
株式譲渡による事業承継では、法人の代表者の変更をもって承継完了とみなされます。たとえば第9次公募に申請している場合、2024年11月22日までに(i)現経営者が代表を辞任し、(ii)後継者が代表権を持つ状態にする必要があります。
M&A類型への申請不可
親族内承継の場合、経営革新枠であってもM&A類型には申請できません。申請枠の選択を誤ると審査で不採択になるため、公募要領で対象類型を必ず確認してください。補助対象経費(事業承継促進枠)
設備費・産業財産権等関連経費・謝金・旅費・外注費・委託費などが対象です。専門家活用枠ではFA(ファイナンシャルアドバイザー)費用・仲介費用・デュー・デリジェンス(DD)費用・セカンドオピニオン費用・表明保証保険料等が対象となります。
補助額・補助率の詳細
令和6年度補正予算での制度改正により、補助上限額が引き上げられました。賃上げ要件の充足状況と事業規模によって補助率・上限額が変わります。
| 条件 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|
| 通常(中小企業) | 800万円 | 1/2 |
| 賃上げ要件を充足(中小企業) | 1,000万円 | 1/2 |
| 小規模事業者(従業員20人以下) | 800万円 | 2/3 |
| 小規模事業者+賃上げ要件充足 | 1,000万円 | 2/3 |
| 専門家活用枠(1,000万円以下の部分) | 最大2,000万円 | 1/2 |
| 専門家活用枠(1,000万円超の部分) | 最大2,000万円 | 1/3 |
※赤字企業や営業利益率が低下している企業には補助率の優遇措置がある場合があります。最新の公募要領を必ず確認してください。
申請フローと必要書類
申請はオンラインの「jGrants」システム(https://www.jgrants.go.jp/)を通じて行います。申請には「gBizIDプライム」の取得が必須です。
申請ステップ
- gBizIDプライムを取得する(取得まで1〜3週間程度かかるため、早めに申請)
- 公募要領・審査基準を確認し、申請枠を決定する
- 事業承継計画書・事業計画書を作成する(認定支援機関の確認書が必要な場合あり)
- jGrantsシステムから交付申請書と必要書類を提出する
- 審査・採択結果の発表を待つ(受付終了から約1か月後)
- 交付決定後に補助事業を実施する(交付決定前の発注・契約は対象外)
- 補助事業期間終了後に実績報告を提出し、確定額の補助金を受領する
- 補助期間終了後3〜5年間、事業化状況を報告する
必要書類(共通)
- 交付申請書(別紙)
- 事業計画書
- 決算書等(過去3年分)
- 事業承継計画書(事業承継促進枠では必須)
- 認定経営革新等支援機関の確認書(該当する場合)
- 付属資料(出資関係図、グループ一覧など)
第14次公募の申請スケジュール(予定)
申請受付期間:2026年2月27日(金)〜2026年4月3日(金)17:00(予定)
gBizID取得は事前に済ませておくこと
gBizIDプライムの取得には1〜3週間程度かかります。公募開始後に取得を始めると申請期限に間に合わない可能性があります。申請を検討している場合は、公募開始前にID取得を完了させておいてください。採択率・過去の実績データ
本補助金の採択率はおおよそ55〜60%前後で推移しており、申請すれば必ず採択されるわけではありません。直近の公募結果は以下の通りです。
| 公募回 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率(概算) |
|---|---|---|---|
| 第13次公募(2026年1月15日発表) | 481件 | 293件 | 約60.9% |
| 第12次公募(2025年10月27日発表) | 742件 | 453件 | 約61.1% |
第13次公募の枠別内訳:事業承継促進枠は申請182件・採択111件、専門家活用枠は申請267件・採択163件、PMI推進枠は申請32件・採択19件でした。
専門家サポートなしでの採択は極めて困難
専門家を入れても採択率が50〜60%程度である点から、この補助金は難易度が高い部類に入ります。税理士・公認会計士・中小企業診断士など認定経営革新等支援機関の支援を受けて申請準備を進めることが事実上必須となっています。申請時の注意事項・よくある失敗
申請時に特に注意が必要な点を以下にまとめます。
1. 交付決定前の発注・契約は補助対象外
令和5年度補正予算以降、対象経費の事前着手は認められません。交付決定後に契約・発注を行い、補助事業期間終了まで(約3か月間)に支払いを完了させる必要があります。
2. 補助金は後払い(自己資金の事前確保が必要)
補助金の交付は対象経費の支払い完了後に行われます。補助金を使って経費を支払うことはできず、経費分の資金は自己調達で賄わなければなりません。
3. 原則2者以上からの見積取得が必要
支払先との契約では、原則として2者以上から見積りを取った上で業者を選定する必要があります。見積書の保管も必須です。
4. 対象外となる事業承継の形態
- グループ内の事業再編(重複する事業の統合等を目的とするもの)
- 法人から過半数の議決権を有する個人事業主へ事業譲渡し、かつ承継者が法人成りしない場合
実質を伴わない事業承継は補助対象外
実態として独立性のない形式的な事業承継や、グループ内再編を目的とする取引は補助対象外です。審査では事業承継の目的・必要性の明確さが厳しく問われます。5. 事業承継計画書の作成が必須
事業承継促進枠では、現経営者と後継者等が共同で作成した「事業承継計画書」の提出が必須です。計画書には引き継ぐ経営資源の活用方法や生産性向上への取り組みを具体的に記載する必要があります。
事業承継税制との組み合わせ活用
補助金と並行して活用できる税制優遇措置を組み合わせることで、相続税・贈与税の負担を大幅に軽減できます。
| 制度名 | 対象 | 主な効果 | 申請期限 |
|---|---|---|---|
| 法人版事業承継税制(特例措置) | 非上場株式等の承継 | 贈与税・相続税の負担を実質ゼロ | 特例計画:2026年3月末/事業承継実施:2027年末 |
| 個人版事業承継税制 | 個人事業主の特定事業用資産 | 贈与税・相続税の負担を実質ゼロ | 個人計画:2026年3月末/事業承継実施:2028年末 |
法人版事業承継税制の特例計画提出期限は2026年3月末
特例事業承継計画の提出期限は2026年3月末です。この期限を過ぎると特例措置の適用を受けられなくなります。株式譲渡・相続対策と補助金の活用を同時に検討している場合は、税理士への相談を早急に行ってください。その他の関連支援制度
事業承継・M&A補助金以外にも、以下の支援制度を並行して活用できます。
事業承継・引継ぎ支援センター(無料相談)
全国47都道府県で事業承継全般の相談対応、事業承継計画の策定支援、M&Aのマッチング支援を原則無料で実施しています。補助金申請前の事前相談窓口としても活用できます。
日本政策金融公庫等による融資・信用保証
株式の買い取りや相続税の支払いなど、承継時に必要となる資金に対して融資や信用保証を受けることができます(日本政策金融公庫)。補助金は後払いであるため、つなぎ資金として融資を組み合わせることが現実的です。
東京都の助成金(都内中小企業向け)
東京都では、自社株式の評価・セルフデューデリジェンス・中核人材確保・育成等の外部専門家委託費用に対し、助成限度額200万円(助成率:助成対象経費の2/3以内、申請下限額20万円)の助成金が設けられています。国の補助金と要件が異なるため、重複申請の可否を事前に確認してください。
M&A支援機関登録制度
M&A支援機関登録制度を通じ、仲介手数料やFA費用が補助対象となる登録支援機関を検索できます。専門家活用枠を利用する際は、登録機関を通じた手続きが補助対象となる条件になる場合があります。
まとめ:親族企業の事業承継資金調達の要点
- ・親族内承継(株式譲渡)は「事業承継促進枠」または「経営者交代類型(Ⅱ型)」が対象。M&A類型には申請不可
- ・補助上限は通常800万円、賃上げ要件充足で1,000万円(事業承継促進枠)。小規模事業者は補助率が2/3に優遇
- ・採択率は55〜60%前後(第12次:61.1%、第13次:60.9%)。税理士・中小企業診断士等の専門家サポートが事実上必須
- ・gBizIDプライムの取得には1〜3週間かかるため、公募開始前に取得を完了させること
- ・補助金は後払いのため、自己資金によるつなぎ資金の確保が必要。日本政策金融公庫の融資との組み合わせが有効
- ・法人版事業承継税制の特例計画提出期限は2026年3月末。補助金と並行して税制優遇の手続きも早急に進めること
- ・第14次公募の申請受付期間は2026年2月27日〜2026年4月3日(予定)
- ・全国47都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターで無料相談を受けることができる
参考情報
- ・事業承継・M&A補助金 公式ウェブサイト: https://shoukei-mahojokin.go.jp/ (最新の公募要領・採択結果・スケジュール)
- ・中小企業庁 事業承継ページ: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html (制度概要・支援策総合情報)
- ・ミラサポプラス(中小企業庁): https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/syokei/ (申請ガイド・解説動画・事例集)
- ・補助金活用ナビ(中小機構): https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_guide/subsidy_info/succession_subsidy.html
- ・jGrants(電子申請システム): https://www.jgrants.go.jp/
- ・GビズID取得ページ: https://gbiz-id.go.jp/
- ・日本政策金融公庫: https://www.jfc.go.jp/ (融資・信用保証情報)
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