家族従業員の給与・労務管理|個人事業主が押さえる基本
家族従業員の法的位置づけ
労働基準法第116条第2項は「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と規定している。 つまり、同居の家族だけで運営する事業では、原則として労働基準法・労働保険法・雇用保険法の保護が及ばない。
原則:同居家族は労働者に該当しない
家族従業員は「労働基準法に規定されている『労働者』に該当しないため、労働者とは見なされず、 労働保険法や雇用保険法の適用を受けることができない」のが原則。 ただし、一定の条件を満たすことで労働者として取り扱われる場合がある。家族従業員が労働者として認められるには、以下の4条件をすべて満たす必要がある。
- 同居の親族以外に一般社員(他の労働者)が存在すること
- 就労の実態が他の労働者と同様であり、賃金もそれに応じて支払われていること
- 労働時間の管理方法・給与の決定・計算方法が明確に定められ、他の労働者と同様に管理されていること
- 事業主の指揮命令に従っていることが明らかなこと
学生バイト等を1人でも雇うと状況が変わる
家族以外の従業員(学生アルバイト等)を1人でも雇うと、事業全体に労働基準法が適用される。 その場合、家族も労働基準法上の労働者として扱われるケースがあるため、就業規則・雇用契約書の整備が不可欠となる。雇用保険・社会保険の加入要件
事業主と同居している親族は原則として雇用保険の加入対象外だが、以下の条件を満たせば被保険者となれる。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 指揮命令関係 | 事業主の指揮命令に従っていること |
| 就業実態 | 労働条件など就業実態が他の労働者と同様に管理されていること |
| 利益関係 | 取締役など事業主と利益を一にする地位にないこと |
健康保険・厚生年金保険(社会保険)については、個人事業主の場合は従業員が5人以上になると加入義務が発生する。 なお、個人事業主自身は国民健康保険・国民年金に加入する。国民健康保険では家族それぞれの収入に応じた保険料が必要となり、 会社員の扶養家族のような仕組みは適用されない。
配偶者の扶養控除・社会保険の壁に注意
家族従業員の収入を増やしすぎると、健康保険の被扶養者要件(年収130万円未満)や 配偶者控除・扶養控除の所得要件を超えるケースがある。 家計全体の手取りが逆に減る可能性があるため、給与額の設計は慎重に行う必要がある。給与の税務処理|青色・白色申告の比較
家族従業員への給与を経費として計上できるかどうかは、青色申告か白色申告かによって大きく異なる。
| 区分 | 制度名 | 控除・経費計上額 | 上限 |
|---|---|---|---|
| 青色申告 | 青色事業専従者給与 | 実際に支払った給与全額を経費計上可 | 上限なし(労務の対価として相当な金額が条件) |
| 白色申告 | 事業専従者控除 | 配偶者:86万円、その他親族:50万円 | 事業所得を(専従者数+1)で割った額との低い方 |
青色事業専従者給与の届出期限:給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで。 その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることとなった場合は、 開始日・専従者となった日から2か月以内が期限となる。
給与額の適正性が税務調査のポイント
青色事業専従者給与は上限がない代わりに、「労務の対価として相当であること」が厳しく見られる。 家族に対して労働内容に見合わない高額な給与を支払っている場合、確定申告で指摘され控除が認められないリスクがある。 給与額は市場相場との整合性を保ち、変更の根拠も記録しておくことが重要。2025年度税制改正による給与設計への影響
2025年分の所得税から以下の制度改正が施行されており、家族従業員の給与設計における選択肢が広がっている。
| 改正項目 | 改正前 | 改正後(2025年分〜) |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 48万円 | 58万円(10万円引き上げ) |
| 給与所得控除の最低保障額 | 55万円(給与収入162.5万円まで) | 65万円(給与収入190万円まで) |
| 扶養親族等の合計所得金額要件 | 48万円以下 | 58万円以下(10万円引き上げ) |
| 特定親族特別控除(新設) | なし | 19歳以上23歳未満の子等の所得が58万円超でも親が控除可能 |
給与収入190万円まで最低保障額65万円が適用
給与所得控除の最低保障額が引き上げられたことで、家族従業員の給与を一定額以上に設定しても 控除額が確保しやすくなった。給与総額の見直し時には改正後の控除額を前提に試算することが重要。家族従業員を雇用する際の手続きフロー
家族従業員の雇用に際しては、一般従業員と同様の手続きに加え、税務上の届出が必要となる。
- 労働条件の明示:仕事の内容・給料・労働時間等の労働条件を書面で明示する(労働条件通知書の交付)。 法律で定められた必須事項を漏れなく記載すること。
- 雇用契約書の作成:労働条件通知書と兼用可。署名・捺印を双方で行い、各1部保管する。
- 青色事業専従者給与に関する届出書の提出:給与を経費算入する年の3月15日まで(または事業開始・専従者が生じた日から2か月以内)に 所轄税務署へ提出する。
- 社会保険・労働保険の手続き:労働者性が認められる場合は雇用保険の加入手続き(ハローワーク)、 従業員5人以上の場合は健康保険・厚生年金の加入手続き(年金事務所)が必要。
- 給与計算と源泉徴収:従業員を雇用すると源泉徴収義務が発生する。毎月の給与から所得税を差し引き、 翌月10日までに税務署へ納付する(納期の特例を利用する場合は年2回)。
- 出勤簿・給与台帳の整備:就業実態を証明するための記録として、出勤簿・給与台帳・勤務記録を継続的に整備する。
届出なしに給与を経費計上することは認められない
青色事業専従者給与は、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出していなければ経費として認められない。 届出を失念したまま確定申告で経費計上しても否認されるため、事業開始時または専従者雇用開始時に必ず手続きを行うこと。まとめ|家族従業員の人件費最適化チェックリスト
- ✅ 同居家族は原則として労働基準法・雇用保険法の適用外。労働者性を認めてもらうには就業実態の整備が必要。
- ✅ 青色申告に切り替えると「青色事業専従者給与」として給与全額を経費計上可能(上限なし)。白色申告の事業専従者控除は配偶者86万円・その他50万円が上限。
- ✅ 青色事業専従者給与の届出期限は給与算入を開始する年の3月15日まで(または専従者発生から2か月以内)。
- ✅ 2025年度から基礎控除が10万円引き上げ(48万円→58万円)、給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円に拡充。
- ✅ 2025年度から「短時間労働者労働時間延長支援コース」が新設(社会保険適用時処遇改善コースは令和7年度末で廃止)。2026年度は正社員化コースに情報公表加算(中小企業20万円)が新設された。
- ✅ 家族従業員の給与を増やす際は、健康保険の扶養要件(年収130万円未満)・扶養控除の所得要件(58万円以下)との兼ね合いを家計全体で試算すること。
参考情報
本記事は以下の公的情報源をもとに作成した(調査基準日:2026年6月13日)。
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国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm -
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm -
中小企業庁「支援策チラシ一覧」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/support.html -
J-Net21(中小機構)「従業員を雇う場合の社会保険」
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list8/8-2-1.html


