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人材 AI・DX 経営者向け

「求人に応募する」が消える日――候補者と企業、双方に専属AIを置く『Jack & Jill』が4,000万ドルを調達

候補者側と企業側、それぞれのAIエージェントが対話し人材を橋渡しするイメージ

「求人に応募する」という行為が、転職活動から消えるかもしれません。候補者側のAI「Jack」と企業側のAI「Jill」がそれぞれ対話を重ね、両者が「合う」と判断したときだけ、通常の応募プロセスを飛ばして採用担当者へ直接紹介する。そんな採用サービス『Jack & Jill』(英ロンドン)が、Air Street Capital主導のシリーズAで4,000万ドルを調達しました。個人的に気になったのは、候補者の側にも「自分のために動くAI」がつくという設計です。採用の入口そのものが変わる可能性を感じます。

1. 候補者と企業、両方に専属のAI

仕組みの中心は、役割の異なる2つのエージェントです。Jackは候補者側に立ち、音声通話・メール・WhatsAppでの対話を通じて経験や希望、転職するなら何を重視するかを理解します。公式サイトによれば、Jackは1日あたり数百万件規模の求人情報を分析し、短い会話の積み重ねから候補者の「ストーリー」と何を大切にしているかを把握したうえで、絞り込んだ少数の求人を提示する設計です。

Jillは企業側に立ち、職務記述書や採用担当者とのやり取りから採用要件を整理し、「その職で成功するとはどういうことか」まで踏み込んで具体化します。過去の採用結果から学習して精度を高める継続改善の仕組みも備えています。両者が対話の結果「適合する」と判断した場合、候補者は通常の応募書類を書かずに、採用担当者へ直接紹介されます。

候補者は自分の経歴や次に求める仕事について話すところから始めます。企業側も、求人票や会話を通じて採用したい人物像をJillに伝える設計です。さらに、今すぐ転職するつもりがない人にも対応しており、Jackが機会を探し続け、本人が検討したくなる仕事が見つかったときに動ける仕組みになっています。「転職活動を始めてから仕事を探す」のではなく、「仕事を探し続けながら、動くべきときに動く」という順序への転換です。

出典:Jack & Jill公式サイト「Jack」ページ / Jack & Jill公式サイト「Jill」ページ

2. 資金調達と利用規模

今回のシリーズAは4,000万ドル(約3,468万ユーロ)で、AIスタートアップ専門ファンドのAir Street Capitalが主導しました。新規投資家としてMadronaとAntlerが参加し、シード期からの既存投資家Creandum、Ada Ventures、Entrepreneurs First、Expedite Capital、Repeat.vcなども参加しています。2025年10月に発表した2,000万ドルのシード調達から1年足らずで、累計調達額は6,000万ドルに達しました。2025年3月にMatt Wilson氏とSaaras Mehan氏がロンドンで創業した会社です。

公表されている利用規模は、Jackと対話する登録者が35万人(シード時から10倍に増加)、Jillを利用する企業が5,000社超(Ramp、Attio、Multiverseなど)。両エージェントが仲介した面談は累計2万5,000件、直近では月5,000件のペースで設定されています。候補者がJackと交わした音声対話の時間は累計1万2,000時間超と報じられています。

ただし、報道では採用決定(実際に入社に至った件数)は示されていません。面談が増えたことと、良い採用が増えたことは分けて確かめる必要があります。売上が「シードから40倍」という数字も紹介されていますが、比較元となる売上額は報じられておらず、伸び率だけでは事業の規模や継続性までは判断できません。ビジネスモデルは候補者側の利用は無料で、企業側の採用成功時に成功報酬(コミッション)を得る仕組みです。新たな資金は、2026年1月に開始したサンフランシスコ、6月に開始したニューヨークに続く米国展開に充てられるとしています。

出典:The Next Web「Jack & Jill raises $40M to put an AI agent on both sides of the hiring table」(2026年9月15日) / SiliconANGLE「Jack & Jill raises $40M to change the face of job hunting with AI agents」(2026年9月16日) / VentureBurn「Jack & Jill Raises $40 Million To Put AI Agents on Both Sides of Hiring」 / TechCrunch「Jack & Jill raises $20 million to bring conversational AI to job-hunting」(2025年10月16日)

3. 履歴書ではなく、対話から得られる情報の価値

この仕組みを考えるうえで面白いのは、履歴書と会話で得られる情報の違いです。履歴書には過去の会社・役職・経験が並びますが、それだけでは次の仕事で何を変えたいのかまでは見えにくいものです。

たとえば同じマネージャー経験者でも、次に求めるものはさまざまです。引き続き組織を大きくしたい人もいれば、もう一度自分でプロダクトをつくりたい人もいますし、役職よりも取り組む課題そのものを優先したい人もいます。職歴が似ていても、紹介すべき仕事は変わります。

Jackの公式説明でも、経歴に加えて本人が大切にしていることや、転職に値する条件を理解するとしています。転職の判断に必要なのは、スキルが合うかどうかに加えて、その仕事を選ぶ理由です。だからこそ、会話を通じて得た希望や、提示された求人への反応が重要な情報になると考えられます。

出典:Jack & Jill公式サイト「Jack」ページ

4. 採用プロダクトの競争はどう変わるか

ここからは筆者の考察です。候補者がAIで応募書類をつくりやすくなり、企業もAIで候補者を探しやすくなる。その結果、互いが確認する情報量まで増えてしまうなら、作業の自動化だけでは負担は残ります。そこで価値になるのが、「会う理由がある相手」を絞って紹介することです。

  • 候補者にとって — 自分では探さなかった選択肢との出会い
  • 企業にとって — その仕事に関心を持つ候補者との接点
  • 双方にとって — 会う前に期待値や条件をすり合わせられること

このモデルが機能するなら、採用サービスが競う軸も広がります。保有する求人や登録者の数に加えて、どれだけ本人の希望を理解できているか。企業の要件をどれだけ具体化できるか。そして、その理解を使って納得できる紹介を生み出せるか。「何ができるか」と「次に何をしたいか」をつなぐ設計が重要になりそうです。

筆者がこのサービスで見たいのは、「何万件の面談をつくったか」の先にある数字です。AIとの会話から紹介された仕事を、入社後も選んでよかったと思える人がどれだけ増えるか。求人を探して何社にも応募する時間を減らし、自分に合う仕事を選ぶために時間を使える。そこまで実現できるなら、転職体験はかなり変わるはずです。中小企業の経営者にとっても、応募を待つだけでなく「自社が求める人物像」をAIに言語化させ、能動的に候補者へアプローチする発想は、採用競争力を左右する論点になっていくと考えています。

まとめ

『Jack & Jill』は、候補者側のAI「Jack」と企業側のAI「Jill」が対話し、条件が合えば直接紹介する採用サービスとして、Air Street Capital主導のシリーズAで4,000万ドルを調達しました。登録者35万人、企業5,000社超、累計面談2万5,000件という規模の数字がある一方、採用決定数と売上の比較元は非公開で、面談数の伸びと成果の伸びは分けて見る必要があります。

履歴書だけでは見えない「次に何をしたいか」を対話から拾い上げる設計は、採用サービスの競争軸を「保有する求人数」から「本人の希望や企業の要件をどれだけ理解できるか」へ広げる可能性を持っています。

参考資料

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