GMOが在宅勤務を完全廃止――「タイピング数」で測る生産性と、世界のオフィス回帰の行方
⚡忙しい人向けの30秒まとめ
- ✓ GMOインターネットグループは2026年7月13日付で在宅勤務の推奨を完全廃止。2020年1月に「日本一早く」約4,000人を在宅に切り替えてから6年半での方針転換で、熊谷正寿会長は「時間当たりのPCタイピング数は確実に減少」「トータルではマイナス」と根拠を説明した。
- ✓ GMOは孤立事例ではない。国内ではLINEヤフーが2025年4月に完全リモートを廃止、楽天も原則週4日出社。米国ではAmazonが週5日出社を義務化し、Fortune 100で週5日出社対象の社員は1年で11%→54%に急増。世界的な「オフィス回帰」の潮流が背景にある。
- ✓ 一方でStanford等の研究は「出社義務化に測定可能な生産性向上はなく、ハイブリッド週2〜3日が最適」と示し、RTO後は離職率が平均13〜14%増(女性は約3倍)とも。人手不足の中小企業には柔軟な働き方が採用・定着の武器になり、テレワーク・生産性向上関連の助成金で環境整備を支援できる。
GMOインターネットグループが、コロナ禍以降続けてきた在宅勤務を2026年7月13日付で完全に廃止したことを発表し、大きな反響を呼びました。熊谷正寿会長兼社長は、廃止の根拠のひとつとして「時間当たりのパソコンのタイピング数が確実に減った」ことを挙げ、「トータルでは在宅勤務はマイナス」と説明しました。同時に、世界ではAmazonやGoogleをはじめとする「オフィス回帰」の波が広がっています。この記事では、GMOの決断の中身、なぜリモートワークが広がったのかという背景、世界の潮流、そして研究が示す実態を整理したうえで、中小企業が働き方をどう設計すべきかを解説します。
何が起きたか――GMO、6年半の在宅勤務に幕
GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は2026年7月14日、在宅勤務の推奨を7月13日付で廃止したと明らかにしました。GMOは2020年1月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、国内企業として「日本一早く」約4,000人の従業員をグループ全体で在宅勤務に切り替えた企業として知られていました。その旗振り役だった会社が、6年半で在宅勤務に幕を下ろした形です。
廃止は一度に行われたわけではなく、段階的に進んできました。時系列で見ると、方針が少しずつ「出社」へ傾いてきたことが分かります。
| 時期 | GMOの動き |
|---|---|
| 2020年1月 | コロナ対応で約4,000人を在宅勤務に切り替え(「日本一早い」導入) |
| 2023年2月 | 週2日在宅勤務のグループ推奨を廃止し、出社を原則化 |
| 〜2026年 | 採用力や社員のQOL維持のため、週1日程度の在宅を柔軟に容認 |
| 2026年7月13日 | 週1日程度の在宅勤務も含め、在宅勤務の推奨を完全廃止 |
ただし完全な「一律出社」ではなく、家庭の事情やオフィス環境など個別の事情がある場合は、グループ各社の判断で例外を認めるとしています。とはいえ、原則は「出社」に大きく振れました。
「タイピング数は生産性か」――判断根拠をめぐる論点
今回の発表で最も議論を呼んだのが、熊谷氏が示した根拠です。同氏はX(旧Twitter)への投稿などで、在宅で生産性が上がる社員がいる一方、「時間当たりのPCタイピング数は確実に減少した」とし、コミュニケーションの希薄化や意思決定スピードへの悪影響も踏まえ「トータルでは在宅勤務はマイナス」だと説明しました。
ここで多くの人が引っかかったのが、「タイピング数は本当に生産性を表すのか」という点です。企画を練る、資料を読み込む、人と話して意思決定する――こうした付加価値の高い仕事は、必ずしもキーボードを打つ量に比例しません。むしろGMO自身がAI活用を強力に推進している中で、「AIに指示すれば少ない入力で成果が出る」時代に、タイピング数の減少を生産性低下と結びつけるのは矛盾だ、という指摘も相次ぎました。
ここから学べること:「何をもって生産性とするか」を決めずに働き方を評価すると、測りやすい指標(労働時間・入力量・出社日数)に引きずられがちです。本来測るべきは成果(アウトプット)であり、入力量はその代理指標に過ぎません。自社で働き方を見直すときも、まず「成果をどう定義・測定するか」から始めるのが出発点になります。
もっとも、GMOが挙げた「対面での偶発的なアイデア創出」「意思決定の速さ」「新人の育成のしやすさ」といった、数字に表れにくい対面の価値には一定の説得力があります。要は、タイピング数という一指標だけで語れる問題ではないということです。だからこそ経営判断としての賛否が大きく割れています。
そもそも、なぜリモートワークは広がったのか
「出社回帰」を理解するには、そもそもなぜリモートワークがここまで広がったのかを振り返る必要があります。日本では2019年時点のテレワーク実施率は2割程度にとどまり、対面重視の文化・紙・はんこといった慣行が根強く、制度自体が整っていない企業がほとんどでした。
それを一変させたのが2020年のコロナ禍です。緊急事態宣言による出勤抑制で、企業は否応なく在宅勤務を導入しました。東京商工リサーチの調査では、1回目の緊急事態宣言時にテレワーク実施率が17.6%から56.4%へ急上昇したとされます。つまりリモートワークは、働き方改革の理想として広がったというより、感染防止と事業継続(BCP)のための「緊急避難」として一気に普及したのが実態でした。
その後、コロナが落ち着くにつれて揺り戻しが起きます。国土交通省の調査では、日本の雇用型テレワーカーの割合は直近で約25%と、緊急事態宣言下のピークからは大きく下がり、「完全出社」でも「完全リモート」でもないハイブリッド勤務に落ち着きつつあります。GMOの決断は、この揺り戻しの流れの中で、より出社寄りに舵を切った象徴的な事例と言えます。
世界で進む「オフィス回帰」の潮流
オフィス回帰はGMO一社の話ではなく、国内外の大企業で広がる大きな潮流です。特に米国のテック大手が先導役となっています。
| 企業 | 出社回帰の動き |
|---|---|
| Amazon(米) | 2025年1月に約35万人を対象に出社を強化。2026年には原則週5日出社を義務化 |
| Google(米) | オフィスから50マイル圏内の社員に週3日以上の出社を義務化(2026年から段階適用) |
| LINEヤフー(日) | 2025年4月に完全リモート勤務を廃止 |
| 楽天グループ(日) | 原則週4日出社を基本方針に |
規模感を示すデータもあります。米国の調査では、Fortune 100企業で「週5日出社」を求められる社員の割合が、1年前の11%から54%へと急増しました。Apple、Meta、Microsoft、Netflixなども軒並みハイブリッドでの出社日数を増やしています。企業側が出社を求める理由として多いのは「協業・チームワーク(約68%)」「生産性(約64%)」「コミュニケーション(約61%)」です。GMOが挙げた理由と、驚くほど重なります。
研究が示す「出社義務化=生産性向上」ではない現実
ここで冷静に押さえておきたいのが、「出社させれば生産性が上がる」という前提は、必ずしも研究で裏づけられていないという点です。スタンフォード大学やピッツバーグ大学などの複数の研究は、次のような結果を示しています。
- 出社義務化に「測定可能な生産性向上」は確認されていない――ハイブリッド勤務は完全出社と同等の生産性を示し、最適点は「週2〜3日出社」とする研究が複数ある
- 株価下落後に出社義務化する傾向――業績が振るわない企業が出社を求めやすく、義務化しても業績や企業価値の改善にはつながっていないとの分析がある
- 離職率の上昇――出社義務化の発表後、異常な離職率が平均で13〜14%上昇。特に女性の離職率は男性の約3倍に高まったとの研究もある
つまり、出社回帰には「対面の良さ」という説得力がある一方、「人材流出」という無視できないコストが伴います。GMOに対しても現場からは「子どもの急な発熱に対応できない」「通勤時間で生活の質が下がる」といった声が上がり、退職を選んだ人もいると報じられています。出社義務化は生産性の万能薬ではなく、採用・定着とのトレードオフだと理解しておく必要があります。
中小企業はどう考えるべきか
ここで注意したいのは、大企業の「出社回帰」をそのまま中小企業が真似る必要はないということです。GMOやAmazonのような大企業は、知名度と待遇で人が集まるからこそ「出社義務化で辞める人が出ても回る」余地があります。一方、慢性的な人手不足に直面する多くの中小企業にとって、柔軟な働き方は数少ない採用・定着の武器です。
視点の違い:大企業の論点は「出社させても人は集まる。ならば対面の密度を取り戻したい」。中小企業の論点は「柔軟な働き方をやめたら、そもそも応募が来ない」。同じニュースでも、自社の採用力・立地・職種によって最適な答えは正反対になり得ます。
現実的な落としどころは、二者択一ではなく「自社にとっての最適なハイブリッド」を設計することです。研究が示す通り、週2〜3日出社が生産性と満足度のバランスが良いとされます。ポイントは次の3点です。
- 成果で測る仕組みをつくる――「タイピング数」や「出社日数」ではなく、業務の成果物・納期・顧客満足で評価する。これがあれば、出社かリモートかは手段の問題になる
- 対面の価値が高い業務を見極める――新人教育、企画のブレスト、重要な意思決定は対面、集中作業や定型業務はリモート、と業務ごとに使い分ける
- 制度と環境をきちんと整える――就業規則・情報セキュリティ・コミュニケーションツールを整えれば、リモートは「なんとなく」ではなく戦力になる。ここに公的支援を活用できる
働き方改革・生産性向上に使える補助金
柔軟な働き方の整備も、出社を前提とした生産性向上も、いずれも設備・システム・研修に費用がかかります。中小企業向けには、こうした投資を後押しする制度が用意されています。目的別に整理しました。
| 補助金・助成金 | 主な用途 | ポイント |
|---|---|---|
| 人材確保等支援助成金(テレワークコース) | テレワーク導入・環境整備 | 就業規則整備や機器導入など、テレワークを制度として根づかせる取り組みを支援 |
| 働き方改革推進支援助成金 | 労働時間短縮・年休取得・勤務間インターバル | 生産性向上とセットで労働環境を改善する取り組みに。設備・コンサル費が対象 |
| デジタル化・AI導入補助金2026 | グループウェア・業務システム・AIツール | オンライン会議・勤怠管理・情報共有の基盤づくりや、定型業務の自動化に |
| 業務改善助成金 | 生産性向上の設備投資+賃上げ | 最低賃金の引き上げとセットで設備投資を支援。「人数より単価」の戦略と相性が良い |
制度の名称・内容・公募時期は毎年見直されます。自社の状況に合う制度を探すには、「補助金さがすAI」で無料検索するのが手早く、地域や目的で絞り込めます。
まとめ:経営者がすべきアクション
- ✓ 「タイピング数=生産性」ではない――働き方を評価する前に、自社にとっての「成果」の定義と測り方を決める。測りやすい指標に流されない
- ✓ 「出社義務化=生産性向上」も自明ではない――研究では出社義務化に明確な生産性向上は確認されず、むしろ離職リスクが伴う。対面の価値と人材流出はトレードオフ
- ✓ 大企業の潮流をそのまま真似ない――人手不足の中小企業にとって柔軟な働き方は採用・定着の武器。二者択一ではなく「週2〜3日出社」など自社最適のハイブリッドを設計する
- ✓ 制度・環境整備に補助金を活用する――テレワーク環境の整備も生産性向上投資も、人材確保等支援助成金やデジタル化・AI導入補助金2026などで負担を減らせる。自社に合う制度は無料検索で探す
参考資料
- ITmedia NEWS — GMO、在宅勤務を完全廃止 コロナ禍以降続けてきた週1日の「推奨」も終了
- 日本経済新聞 — GMO、在宅勤務を廃止 熊谷正寿会長兼社長「トータルではマイナス」
- coki — GMO 在宅勤務を完全に廃止 通勤負担・人材流出の懸念 IT業界出社回帰加速
- 国土交通省 — テレワーク人口実態調査
- SoftwareSeni — What Research Really Shows About Return to Office Mandates and Productivity
- Baylor University — Return-to-Office Mandates and the Hidden Cost of Brain Drain
- Founder Reports — Essential Return-to-Office Statistics and Trends (2026)
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