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経営者向け 失敗から学ぶ

穴吹工務店|「サーパス」で全国2位に駆け上がった地方マンションデベロッパーが、リーマンショックで負債1400億円に沈むまで

穴吹工務店|「サーパス」で全国2位に駆け上がった地方マンションデベロッパーが、リーマンショックで負債1400億円に沈むまで

香川県高松市の小さな工務店として1952年に産声を上げた穴吹工務店は、「サーパス」という分譲マンションブランド一本で、地方から全国に勢力を広げた稀有な企業だ。2007年頃にはマンション年間販売戸数で全国2位にまで駆け上がり、東京の大手デベロッパーと肩を並べた。しかし2009年11月24日、同社は東京地裁に会社更生法の適用を申請。負債総額は約1,400億円に達した。地方発の成功モデルが、リーマンショックという外部ショックを受けた瞬間にいかに脆く崩れたか——穴吹工務店の物語は、不動産・建設業界の経営者にとって、好調期にこそ問い直すべき教訓に満ちている。

「サーパス」全盛期——地方発で全国2位に駆け上がった分譲マンションの雄

穴吹工務店の創業は1952年(昭和27年)。香川県高松市で創業者・穴吹夘吉が個人経営の工務店として始めた、ごく小さな建設会社だった。1964年に「株式会社穴吹工務店」として法人化。当初は地元の公共工事や個人住宅の請負が中心で、四国の片隅にある一地方ゼネコンに過ぎなかった。

転機は1970年代だ。日本全体が高度経済成長期から安定成長期へと移行するなかで、穴吹工務店は分譲マンション事業へ本格参入する。1977年、自社ブランド「サーパス(SURPASS)」マンションを発売。英語で「超える」「凌駕する」を意味するこの名は、地方都市における住宅の質を一段引き上げるという同社の意気込みを表していた。

地方都市の中心市街地に駅近・大規模・ハイグレードな分譲マンションを供給するという同社の戦略は、当時としては大胆な発想だった。地方都市では一戸建てが住まいの中心であり、ファミリー向け分譲マンションは未開拓の市場だったからだ。サーパスは「地方の中心市街地に住む」というライフスタイルを提示し、地方の医師、地元企業の経営者、公務員といった層に支持を広げた。

2007年頃、穴吹工務店はマンション年間販売戸数で大京に次ぐ全国2位の地位に到達した。本社が地方の高松にありながら、全国の主要都市にサーパスを供給する体制を築き上げた。「サーパス」の累計供給戸数は2009年時点で約9万戸を超え、地方発のマンションブランドとしては前例のないスケールに達していた。

同社の強みは「地方都市の中心市街地に集中投資する」という独自ポジショニングにあった。三井不動産・三菱地所・住友不動産といった大手デベロッパーが首都圏・関西圏の主戦場で激戦を繰り広げるなか、穴吹工務店は地方政令市・県庁所在地クラスの中心部に的を絞った。競合の少ない市場で、地元の信用力と独自のサプライチェーンを武器に高シェアを確保するモデルだ。

地方発で全国2位という地位は、創業者一族の経営判断と、地方の中堅企業らしい機動力が生んだ快挙だった。だが、好調期に積み上げた事業モデルそのものが、後にリーマンショックという外部要因と組み合わさったとき、致命的な弱さを露呈することになる。

出典: あなぶき興産グループ 沿革 / Wikipedia 穴吹工務店 / 不動産流通推進センター 不動産業統計集

ファミリーマンションへの過剰投資——好調期に積み上がった土地と在庫

2000年代前半から半ばにかけて、日本のマンション市場はミニバブルの様相を呈していた。低金利と都心回帰トレンドが重なり、ファミリー向け分譲マンションは「作れば売れる」状況が続いた。穴吹工務店もこの追い風に乗り、地方主要都市に加えて首都圏・関西圏への進出を加速させた。

同社は積極的に土地仕入れを進めた。地方都市の中心市街地の優良用地に加え、首都圏の郊外駅近物件、関西圏の再開発エリアなど、仕入れ対象地は急速に広がった。マンション開発はその性質上、土地仕入れから引き渡しまで2〜3年のリードタイムがある。仕入れ判断の時点で景気が後退局面に入っていたとしても、完成・販売の頃には市況が大きく変わっている可能性が常につきまとう。

2007年頃、年間販売戸数全国2位に達した同社は、さらにシェアを伸ばそうと土地仕入れと工事着手のペースを上げた。販売の好調さに自信を得た経営判断だったが、結果的にこれが致命的な過剰在庫を生む原因となる。ファミリーマンションは1棟あたり数十億円規模の在庫であり、売れ残れば資金繰りを直撃する。戸建てや小型物件と違い、いったん事業に着手すれば「途中で中止」が極めて難しいのもマンション事業の特徴だ。

2007〜2008年にかけて、穴吹工務店の棚卸資産(土地・建設仮勘定・完成在庫)は急膨張した。仕入れ時の地価は高値圏であり、銀行借入で資金調達したファミリーマンション用の土地が全国に積み上がっていた。「販売の好調が続けば回収できる」——その前提が崩れたとき、過剰な在庫は瞬く間に毒に変わる。

2007年8月にはサブプライムローン問題が顕在化し、世界的に信用収縮の兆しが見え始めていた。日本国内でも、首都圏マンションの売れ行きは2007年後半から減速し始めていた。にもかかわらず、リードタイムの長いマンション事業は急ブレーキを踏むのが難しい。すでに着手した物件は完成させて売り切るしかなく、新規仕入れも完全に止めれば翌々年の供給が途絶える。中堅以上のマンションデベロッパーが、いずれも同様のジレンマを抱えながら、楽観的な需要前提のもとで仕入れを続けていた時期だった。

出典: 不動産経済研究所 全国マンション市場動向 / 国土交通省 不動産価格指数

リーマンショックと急激な販売不振——「売れる前提」が一夜で崩れた(2008〜2009年)

2008年9月15日、米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻が世界経済を直撃した。日本の不動産市場は、住宅ローンの審査厳格化、雇用不安、株価下落といった複合要因で一気に冷え込んだ。首都圏の新築マンション契約率は、好不調の分水嶺とされる70%を割り込み、2008年秋以降は50〜60%台で推移する月が続いた。

穴吹工務店の主力である地方都市市場も例外ではなかった。地方の中堅企業の業績悪化、ボーナス削減、住宅ローン審査の厳格化が重なり、これまで安定的に売れていた地方政令市のファミリーマンションが目に見えて売れなくなった。完成在庫が積み上がり、値引き販売を余儀なくされる物件も増えた。値引きは販売を回復させる代わりに利益率を削り、土地仕入れ時の前提利益を実現できなくなる。

2007〜2008年に高値で仕入れた土地は、2009年時点では時価が大きく下落していた。会計上は棚卸資産評価損として処理せざるを得ず、巨額の減損損失が決算を直撃した。同時期、同業のアーバンコーポレイション、ゼファー、モリモト、ダイナシティといった中堅マンションデベロッパーが相次いで経営破綻したことは、業界全体に衝撃を与えた。2008年8月にはアーバンコーポレイションが負債2,558億円で民事再生法を申請し、不動産業界の連鎖破綻が現実化していった。

リーマンショック後の不動産不況で、銀行の貸出姿勢も急速に厳格化した。マンション事業は土地仕入れと建築工事のために多額のプロジェクトファイナンスを必要とする資金集約型ビジネスだ。銀行が新規融資をためらい、既存融資の借換条件を厳しくすれば、デベロッパーの資金繰りは一気に逼迫する。穴吹工務店も、メインバンクを含む取引金融機関との調整に追われることになった。

2009年に入ると、同社は私的整理(事業再生ADR制度)による再建も模索したと報じられている。だが、9万戸超を供給してきた巨大なバランスシートと、全国に広がる完成在庫・仕掛在庫の処理規模は、私的整理で吸収できる範囲を超えていた。土地・建物の評価減、購入者・施工業者・取引金融機関の利害調整は複雑を極め、最終的に法的整理に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれていく。

出典: 不動産経済研究所 全国マンション市場動向 / 日本経済新聞「穴吹工務店、会社更生法申請」(2009年)

2009年11月、会社更生法申請——負債1,400億円、大京傘下での再生(2009〜2010年)

2009年11月24日、株式会社穴吹工務店は東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請した。負債総額は約1,400億円。グループ企業を含めると2,000億円規模に達し、2009年における不動産業界の大型破綻の一つとして報じられた。同年は私的整理から法的整理に切り替える中堅不動産会社が続出した年であり、穴吹工務店もその流れの一翼となった。

会社更生法は、債権者の同意のもと裁判所の監督下で事業継続を図りつつ債務整理を進める制度だ。民事再生と異なり、経営陣は原則として退陣し、管財人による経営に移行する。穴吹工務店の場合、「サーパス」というブランドは依然として地方都市で強い認知を持っており、ブランド・事業そのものの価値は十分に残っていた。問題は、過剰な土地・建設仮勘定と借入金がバランスシートを破綻させていた点にあった。

申請後、スポンサー選定が進められた。複数の候補が名乗りを上げるなか、最終的に大京と京浜兄弟商会(穴吹興産系)の連合が支援企業に選定された。大京は分譲マンション「ライオンズマンション」で知られる業界大手であり、2004年からオリックスの傘下で経営再建を進めていた企業だ。穴吹工務店のマンション事業を承継することで、業界シェアの拡大とブランド補完を狙った。

2010年8月、会社更生計画案が東京地裁で認可決定を受けた。サーパス事業を含む分譲マンション事業は大京に承継され、住宅・建築工事事業については香川県の関連企業(穴吹興産系の京浜兄弟商会)が中心となって引き継いだ。「サーパス」ブランドは大京の下で存続することとなり、購入済みの居住者へのアフターサービスも継続される枠組みが整った。

現在、「サーパス」マンションブランドは大京(オリックス傘下)の下で存続している。地方都市の中心市街地に分譲マンションを供給する事業モデルは大京に引き継がれ、全国各地でサーパスシリーズの新築供給が続けられている。一方、香川県高松市を本拠とする穴吹興産グループは、別系統で不動産・建設・介護・ホテル等の事業を継続しており、「あなぶき」の名は地元四国を中心に依然として広く知られている。

創業から57年で全国2位に駆け上がった企業が、わずか2〜3年の市況悪化で会社更生法を申請するに至った事実は、不動産業界の苛烈さを象徴している。ただし、ブランドと事業ノウハウは別資本のもとで生き延びた——この点は、製造業の破綻事例とは異なる、不動産業界特有の再生パターンといえる。

出典: 日本経済新聞「穴吹工務店、会社更生法申請」(2009年) / 大京 サーパス公式サイト / あなぶき興産グループ 沿革 / Wikipedia 穴吹工務店

中小不動産・建設業の経営者が学べること

穴吹工務店は地方発で全国2位という成功モデルを築き上げた優良企業だった。それでも会社更生法申請に至った。その失敗のパターンには、不動産・建設業に限らず、好況期に事業を拡大したあらゆる中小企業経営者が学べる教訓が含まれている。

教訓1:好況期こそ「在庫リスク」を意識する

マンション事業は土地仕入れから引き渡しまで2〜3年のリードタイムがあり、好況期の判断が不況期に結果として跳ね返ってくる。「売れているうちに仕入れを増やす」発想は、需要が頭打ちになった瞬間に致命的な在庫リスクへと反転する。不動産・建設業に限らず、製造業の設備投資、卸売業の在庫積み増し、小売業の出店ペースも同じカラクリを抱えている。好況期にこそ仕入れペースを慎重に管理し、需要前提が崩れた場合のシミュレーションを行う習慣が、中小企業の経営を守る。

教訓2:リードタイムが長い事業は「需要変化」に弱い

マンション開発は土地取得・許認可・設計・建築・販売と一連のプロセスに数年を要する。その間に景気・金利・人口動態が変化すれば、当初の事業計画は陳腐化する。リードタイムが長い事業ほど、複数シナリオでの需要試算と、途中で撤退できる「分割発注・段階着手」の仕組みが重要だ。建設業のスポット工事、製造業の長期受注、農業の長期作付け計画など、リードタイムの長い事業に共通する教訓である。

教訓3:「メインバンク依存」が逆風時に重荷になる

マンション事業はプロジェクトファイナンスへの依存度が高く、メインバンクからの融資姿勢が事業継続を左右する。リーマンショック後、銀行が新規融資をためらい既存融資の借換条件を厳格化すれば、デベロッパーの資金繰りは一気に逼迫した。1行依存・少数行依存の資金調達は、平時のコスト効率と引き換えに、有事の脆弱性を抱え込む。中小企業でも、メインバンクに加えて準メインバンク、政府系金融機関、ノンバンク等の調達ルートを複数持っておくことが、外部ショックへの耐性を高める。

教訓4:ブランドは破綻しても残る——「のれん」の独立性を意識する

穴吹工務店は会社更生法を申請したが、「サーパス」ブランドは大京に承継されて存続している。ブランド・顧客基盤・事業ノウハウは、法人格とは独立した価値を持つ場合がある。不況期にもブランドへの投資を怠らず、事業価値を維持しておけば、最悪のシナリオでもM&Aやスポンサー型再生で従業員と顧客を守る道が開ける。中小企業でも、ブランド・取引先関係・技術ノウハウといった無形資産を平時から大切に育てておくことは、有事の最後の防波堤になる。

出典: 中小企業庁 中小企業白書 / 日本不動産研究所 不動産投資家調査

まとめ:穴吹工務店が教えてくれる「好況期の仕入れが不況期の毒に変わる」現実

  • 穴吹工務店は1952年に香川で創業、分譲マンション「サーパス」シリーズで地方発の全国展開を実現
  • 2007年頃にはマンション年間販売戸数で全国2位、累計供給戸数は約9万戸に到達
  • 2007〜2008年の好況期に土地仕入れと工事着手を加速。リーマンショック後の販売不振で完成・仕掛在庫が急膨張
  • 2009年11月24日、東京地裁に会社更生法を申請。負債総額約1,400億円(グループ含めると2,000億円規模)
  • 2010年に大京・京浜兄弟商会連合がスポンサーとなり再生。「サーパス」ブランドは大京に承継されて現在も存続
  • 教訓:好況期こそ在庫リスクを意識する・リードタイムが長い事業は需要変化に弱い・メインバンク依存の脆弱性・ブランドは法人格と独立した価値を持つ

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

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