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経営者向け 失敗から学ぶ

レナウン|売上2,317億円の名門アパレルが百貨店とともに沈んだ理由

レナウン|売上2,317億円の名門アパレルが百貨店とともに沈んだ理由 - コラム - 補助金さがすAI

「シンプルがいちばん♪」——そのCMソングを記憶している世代は少なくないだろう。バブル期に世界最大規模のアパレル企業として君臨したレナウンは、ピーク時に年売上高約2,317億円を誇り、「ダーバン」「アーノルド・パーマー」「アクアスキュータム」といったブランドを束ねる名門だった。それが2020年5月、コロナ禍で上場企業として初めて経営破綻した企業として報じられた。しかし、従業員たちは「原因はコロナじゃない」と口を揃えた。百貨店依存という構造問題、中国資本への過度な期待、EC化の遅れ——レナウンの転落は、122年の歴史を持つ企業でも変化を拒めば消滅するという、現代の経営者に突きつけられた痛烈な警告だ。

1. レナウンの黄金時代——「CMソングが売る時代」の王者

レナウンの歴史は1902年(明治35年)、大阪での輸入雑貨卸商「佐々木商会」の創業に始まる。社名「レナウン」が商標登録されたのは1923年。1922年に英国皇太子が訪日した際に乗船した巡洋戦艦「HMS Renown(レナウン)」の帽子に書かれた文字から着想を得た、という逸話が残っている。

企業としての跳躍は戦後の高度経済成長期に訪れた。レナウンは既製服市場の拡大をいち早く捉え、1960〜70年代に若い女性向けの既製服ブランドを次々と展開。「レナウン娘」や「イエイエ」といったCMソングは社会現象となり、アパレル業界における圧倒的なブランド認知を確立した。大量消費時代において、テレビCMで認知を作り、百貨店の売り場で売るというビジネスモデルが完璧に機能した時代だった。

1969年には米国のスポーツブランド「アーノルド・パーマー」の日本ライセンスを取得し、1970年に高級紳士服ブランド「ダーバン」を展開する子会社・株式会社ダーバンを設立。1990年には英国の名門ブランド「アクアスキュータム」を買収し、傘下に収めた。「アクアスキュータム」は1851年創業のロンドンの老舗で、英国王室御用達の格調高いブランドだ。これを日本企業が買収したことは、当時の日本経済の勢いを象徴する出来事として注目された。

1990年12月期の年売上高は約2,317億円。この時点でレナウンは「世界最大規模のアパレル企業」と称されるほどの規模を誇っていた。百貨店のテナントを押さえ、テレビCMで消費者を動かし、高品質の紳士服から女性向けカジュアルまでをカバーするフルラインのアパレルグループが完成していた。

この時代のレナウンの競争力の核心は、「百貨店との強固な関係」にあった。百貨店の衣料品売り場において、レナウングループのブランドは優良な売り場面積を占有し、百貨店側もレナウンというブランド力に依存していた。売り手と買い手が相互に依存する強固な関係は、バブル期には何の問題もなく見えた。しかし、この「相互依存」こそが後の転落を招く構造的な脆弱性だった。

(出典:レナウン 有価証券報告書、東京商工リサーチ「法人としての『レナウン』が消滅へ」、Wikipediaレナウン(企業))

2. バブル崩壊後の「じわじわ」とした凋落(1990年代〜2000年代)

1991年のバブル崩壊後、レナウンは緩やかな長期低落に入った。急激な崩壊ではなく、じわじわと続く体力消耗——これが大企業の失敗の典型パターンだ。売上高は1990年の2,317億円をピークに年を追うごとに縮小し、2004年1月期には約591億円と、わずか14年でピーク時の約4分の1にまで落ち込んだ。

衰退の最大の要因は、日本の百貨店業界全体の構造的な停滞だ。バブル崩壊後、消費者の節約志向が高まり、百貨店の衣料品売り場への来客数は年々減少した。かつて「百貨店で服を買う」ことがステータスだった時代は終わり、郊外のショッピングモール、量販店、ユニクロに代表される低価格専門店へと消費者が流れていった。日本のアパレル市場規模は1990年代の約15兆円から、2010年代には10兆円を割り込む水準まで縮小した。

2000年代に追い打ちをかけたのがファストファッションの上陸だ。ZARAが2005年に日本に本格進出し、H&Mが2008年に銀座に旗艦店を開業。低価格で最新トレンドを提供するファストファッションは、「定番の高品質アパレル」というレナウンの価値命題を根底から揺さぶった。若い世代はZARAやH&Mに流れ、中高年層はユニクロに流れた。

しかしレナウンは、このトレンドに対して有効な手を打てなかった。百貨店チャネルへの依存が深く、「百貨店の外で服を売る」という発想への転換が遅れた。経営学でいえば、既存のビジネスモデルが成功してきたがゆえに、そこへの執着が変革を妨げる「イノベーションのジレンマ」の典型例だ。

さらに、インターネットによるEC(電子商取引)の台頭にも乗り遅れた。アパレルのEC化率は2010年代に急速に上昇していったが、レナウンの対応は鈍く、2019年12月期のEC化率はわずか3.2%にとどまっていた。販売チャネル別構成比では、百貨店が売上の55.4%を占めるという、変わらない百貨店依存の構造がそのまま残っていた。

1997年と2019年のアパレル企業売上高ランキングを比較すると、かつて首位だったレナウンは19位に転落している。ダーバンとの統合後も、売上はピーク時の4分の1近くにまで落ち込んでいた。名門の看板はあっても、企業としての実力は別物になっていた。

(出典:日本ネット経済新聞「レナウン経営破たんの一因はEC化の遅れ?」、Business Journal「レナウン倒産が避けられなかった本当の理由」、東洋経済オンライン「百貨店名門アパレルの懊悩」)

3. 中国資本への期待と誤算——山東如意グループとの10年

長期の業績低迷を打開するために、レナウンが選んだ策が中国資本の受け入れだった。2010年7月、中国・山東省に本拠を置く繊維大手「山東如意科技集団有限公司」が第三者割当増資を引き受け、持ち株比率41.52%の筆頭株主になった。さらに2013年4月には追加出資が行われ、山東如意グループの保有比率は53.35%に上昇し、レナウンは山東如意グループの連結子会社となった。

当時の期待は大きかった。急成長する中国の消費市場に、レナウンのブランド力を持ち込むことができれば、業績の回復も夢ではない——そういうシナリオが描かれていた。山東如意自身も、フランスのSMCP(サンドロ、マージュ)やインビスタのアパレル事業など、海外の著名ブランドを次々と買収し、グローバルなアパレルコングロマリットを目指していた。

しかし、山東如意グループ自体が急拡大の代償として深刻な財務危機に陥っていた。2019年9月末時点での負債総額は390億元超に膨らみ、1年以内に返済期限を迎える短期債務だけで65億元に達していた。海外ブランドの買収費用を賄うために借り入れを拡大し続けた結果、グループ全体が「買収による自転車操業」の罠に陥っていた。

この財務危機が、レナウンに直撃した。山東如意の子会社で香港に拠点を置く恒成国際発展有限公司は、レナウンに対して大量の繊維原料を発注していた。しかし2019年、この売掛金が回収不能となる事態が発生した。本来であれば、万が一の際には親会社の山東如意が連帯債務者として債務保証をする取り決めだったが、山東如意自身が資金難に陥っており、保証は履行されなかった。

レナウンは2019年12月期(10ヶ月の変則決算)に、貸倒引当金として53億2,400万円を計上。この一発で営業損失79億円、純損失67億円という巨額赤字を計上した。売上高502億円に対して、親会社グループへの売掛金が回収できなかったことによる損失がこれほどの規模になったのだ。レナウンの財務体力は一気に失われた。

さらに追い打ちをかけるように、2020年3月の定時株主総会では、山東如意グループがレナウンの神保佳幸社長と北畑稔会長の取締役再任議案に反対票を投じ、否決されるという異常事態が発生した。親会社が子会社の経営トップ再任を否決するという前代未聞の事態に、企業統治の機能不全が露わになった。レナウンの経営陣は交代を余儀なくされ、先行きの不透明感が一気に高まった。

(出典:WWDJAPAN「レナウン、山東如意傘下の『10年目の窮地』」、Business Insider Japan「コロナショックで経営破綻のレナウン。老舗アパレルの運命分けた『53億円の売掛金』」)

4. コロナが引き金を引いた2020年の破綻

2020年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。感染防止のために百貨店は臨時休業に追い込まれ、2020年4月の売上高は前年同月比81.0%減という壊滅的な水準に落ち込んだ。

しかし、ここで注目すべきは、コロナは「引き金」であり「原因」ではなかったということだ。レナウンの従業員自身が「原因はコロナじゃない」と証言しているように、問題の本質は10年、20年にわたって積み重なった構造問題にある。百貨店依存から脱却できなかったこと、EC化に乗り遅れたこと、中国資本への移行で経営の自律性を失ったこと——コロナはすでに重病だった患者に追い打ちをかけた最後の一撃に過ぎなかった。

2020年5月15日、子会社のレナウンエージェンシーが東京地方裁判所に民事再生法の適用を申し立て。負債総額は約138億円。コロナ禍で倒産した上場企業としては初のケースとなり、日本全国のニュースで大きく報じられた。

民事再生による再建を目指したレナウンは、スポンサー探しに奔走した。主力ブランドの「ダーバン」「アクアスキュータム」「スタジオバイダーバン」「シンプルライフ」等は、小泉グループの事業会社「オッジ・インターナショナル」に譲渡することが決まった。靴下・下着事業はアツギへ、英国法人のアクアスキュータムは別の買い手が引き受けた。しかし、企業グループ全体としての再建はついに叶わなかった。

2020年10月30日、東京地裁は再生手続き廃止を決定。同年11月27日、破産手続き開始の決定が下された。1902年の創業から118年、日本のアパレル産業の歴史とともに歩んだレナウンは、法人として消滅した。その後、2024年8月に最後配当が実施され、同年内に破産手続きが終結。122年の歴史に完全に幕を下ろした。

なお、ブランド自体はその後も生き続けた。オッジ・インターナショナルは2024年9月に社名を「レナウン」に変更し、「ダーバン」「アクアスキュータム」などのブランドを引き継いで事業を続けている。「レナウン」の名は法人として消えたが、ブランドとしては復活を果たした。

(出典:日本経済新聞「レナウン、破産手続きへ 名門ブランドに幕」、東洋経済オンライン「レナウンショック」、日経BizGate「名門レナウン 上場企業初のコロナ倒産はなぜ起きたか」)

5. 中小企業経営者が学べること

レナウンは上場企業であり、中小企業とは規模が異なる。しかし、その失敗のパターンは中小企業経営者にも直接的に当てはまる普遍的な教訓を含んでいる。

教訓1:特定チャネルへの過度な依存は「時限爆弾」

レナウンの売上の55%が百貨店チャネルに集中していた。百貨店が落ち込めば、自社の売上も連動して落ちる構造だ。これは中小企業における「大口取引先への依存」と同じ問題だ。売上の50%以上を一社・一チャネルに依存している状態は危険信号と心得るべきだ。特定チャネルへの依存を減らし、複数の販路を育てることが、長期的な経営の安定につながる。

教訓2:EC化・デジタル化は「後でやる」では手遅れになる

レナウンのEC化率は2019年時点でわずか3.2%だった。アパレル市場全体のEC化率が10%を超えつつある時代に、これは明らかに遅れていた。デジタル化は「いつかやること」ではなく「今やらなければ手遅れになること」だ。業種を問わず、EC・SNS・デジタルマーケティングへの対応は最優先の経営課題として位置づけるべきだ。EC化の遅れは、ある日突然牙を剥く。コロナがそれを露わにした。

教訓3:資本・取引先の「与信管理」は経営者の最重要業務の一つ

53億円の売掛金が回収できなかったことが、レナウンの致命傷になった。親会社グループの子会社に対する売掛金がここまで積み上がり、かつ回収できない状態になったのは、与信管理の失敗だ。中小企業でも同じことは起きる。売上が立っているように見えても、それが確実に回収できる売掛金かどうか——取引先の財務状況の定期的なチェックと、与信限度の設定は、経営の基本中の基本だ。

教訓4:「名門ブランド」への依存は変革を妨げる

「レナウンは名門だ」「ダーバンは高級紳士服の代名詞だ」——そのブランドへの誇りが、かえって変革の足を引っ張った側面がある。過去の成功体験は「呪縛」にもなりうる。市場環境が変わったとき、「昔からこのやり方でやってきた」という慣性に抗って変化できるかどうか。それが企業の生死を分ける。中小企業であっても、創業時の成功モデルに固執せず、定期的に自社のビジネスモデルを問い直す習慣が重要だ。

(出典:日経BizGate「名門レナウン 上場企業初のコロナ倒産はなぜ起きたか」、Business Journal「なぜ世界最大アパレルだったレナウンは倒産したのか?」)

6. アパレル・小売業の変革に使える補助金

レナウンが直面したような「既存チャネル依存」「EC化遅れ」「事業構造の硬直化」は、多くの中小アパレル・小売事業者が抱える課題だ。国はこうした変革を後押しするための補助金・支援制度を用意している。

制度名 補助上限・内容 活用場面
新事業進出補助金 最大9,000万円(大幅賃上げ特例適用時) 実店舗中心からEC・D2Cモデルへの業態転換
IT導入補助金 最大450万円 ECサイト構築、在庫管理システム、CRM導入
小規模事業者持続化補助金 最大250万円 新規販路開拓、EC展開のための販促・Web広告
ものづくり補助金 最大1,250万円 新製品・新ブランド開発、製造プロセス改善
セーフティネット保証(4号・5号) 融資枠の保証率引き上げ 取引先の倒産・経営悪化による売上減少時の資金調達

レナウンの教訓を踏まえると、特に注目すべきは「新事業進出補助金」「IT導入補助金」だ。

新事業進出補助金は、従来の事業モデルから大きく変革する際に、設備投資や人件費を含む幅広いコストを補助する制度だ。百貨店中心の販売から、自社ECやD2C(Direct to Consumer)モデルへの転換、ポップアップショップによる直販強化といった業態転換に活用できる。「変わらなければ消える」という危機感があるなら、この補助金を変革の原資にするべきだ。

IT導入補助金は、ECサイトの構築・改善から、在庫管理システムの刷新、顧客データ管理(CRM)の導入まで、幅広いITツールの導入を支援する。レナウンのようにEC化率が低いまま手をこまねいた末路を避けるためにも、IT化・デジタル化への投資は早いほど有利だ。

また、取引先の倒産・経営悪化に備えるなら「セーフティネット保証」も押さえておきたい。主要取引先の売上高が前年比で20%以上減少した場合などに発動できる信用保証の優遇制度で、急な資金需要に対応できる。レナウンが経験した「親会社グループへの売掛金回収不能」のような事態は、下請け・外注先・主要取引先の経営悪化という形で中小企業にも十分起きうる。

(出典:中小企業庁「事業再構築補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」各公募要領)

まとめ:レナウンが教えてくれる「変われない企業の末路」

  • レナウンはバブル期に売上高約2,317億円で世界最大規模のアパレル企業だったが、30年かけて衰退し2020年に破産
  • 衰退の根本原因は百貨店への過度な依存(売上の55%)とEC化の遅れ(EC化率わずか3.2%)
  • 中国・山東如意グループへの資本依存が裏目に出て、売掛金53億円が回収不能となり財務体力が一気に失われた
  • 2020年4月の売上は前年同月比81%減。コロナは「引き金」に過ぎず、構造問題が本質だった
  • 教訓:特定チャネル依存の排除・EC化の早期対応・与信管理の徹底・変革への意志が企業存続の鍵
  • 新事業進出補助金(最大9,000万円)、IT導入補助金(最大450万円)を活用し、早期に業態転換に備えることが重要

参考資料
・東京商工リサーチ「法人としての『レナウン』が消滅へ」(2020年)
・日経BizGate「名門レナウン 上場企業初のコロナ倒産はなぜ起きたか」(2021年7月)
・WWDJAPAN「レナウン、山東如意傘下の『10年目の窮地』」(2020年)
・Business Insider Japan「コロナショックで経営破綻のレナウン。老舗アパレルの運命分けた『53億円の売掛金』」(2020年)
・日本ネット経済新聞「レナウン経営破たんの一因はEC化の遅れ?」(2020年)
・東洋経済オンライン「百貨店名門アパレルの懊悩——オンワード、三陽商会、レナウン」
・中小企業庁「事業再構築補助金」「IT導入補助金」各公募要領

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