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経営者向け 失敗から学ぶ

MySpace|世界最大SNSが5.8億ドル買収から3500万ドルへ転落した6年間

MySpace|世界最大SNSが5.8億ドル買収から3500万ドルへ転落した6年間 - コラム - 補助金さがすAI

2006年から2008年にかけて、世界で最も訪問者数の多いウェブサイトはGoogleでもYahoo!でもなく、MySpace(マイスペース)だった。米国カリフォルニア州を拠点とするこのSNSは、2003年の創業からわずか数年で世界最大のソーシャルネットワークの座に上りつめ、2005年7月にはルパート・マードック率いるNews Corporationに5億8000万ドルで買収された。当時のシリコンバレーで「これがソーシャルメディアの未来だ」と讃えられた企業だ。しかしわずか6年後の2011年6月、News CorpはMySpaceを3500万ドル——買収額の約6%の値段で売却した。歌手のジャスティン・ティンバーレイクが出資者として参画したことで一時話題にはなったものの、SNSの王座は完全にFacebookに譲り渡されていた。MySpaceの転落は、「先行者優位は永遠ではない」という現代プロダクト経営の冷徹な教訓を残している。

1. MySpaceの全盛期——世界最大SNSとして君臨した5年間(2003〜2008年)

MySpaceは2003年8月、米国カリフォルニア州サンタモニカで創業した。創業者はTom Anderson(トム・アンダーソン)とChris DeWolfe(クリス・デウルフ)。当時、SNSの先駆けだったFriendsterの混雑とパフォーマンス低下に不満を持っていた彼らは、より自由度の高い、音楽とユーザー表現を中心としたSNSを目指した。サービス開始からわずか数か月でユーザーが急増し、特に若年層、ミュージシャン、インディーズアーティストの間で爆発的な支持を得た。

MySpaceの最大の魅力は、ユーザーが自分のプロフィールページをHTMLとCSSで自由にカスタマイズできる点だった。背景画像、フォント、配色、音楽プレーヤー、アニメーションGIF——ユーザーは自分の個性を文字通り「ページのデザイン」で表現できた。この「自由なカスタマイズ性」が、画一的なFriendsterや当時始まったばかりのFacebookとは決定的に異なる、MySpaceの差別化要因となった。

2005年7月、メディア王ルパート・マードックが率いるNews Corporation(News Corp)が、MySpaceの親会社Intermix Mediaを5億8000万ドルで買収した。マードックは「これからのメディアはオンラインだ」と語り、テレビ・新聞中心だったNews Corpのデジタル戦略の中核にMySpaceを据えた。さらに2006年8月にはGoogleとの間で3年間で約9億ドルの広告契約を締結し、MySpaceは収益面でも一気に注目を集めた。

2008年4月、MySpaceの月間アクティブユーザー数は約7600万人に達し、世界最大のSNSとして頂点を迎えた。米国内の月間ユニークビジター数では一時Googleを抜き、世界で最も訪問者数の多いウェブサイトに躍り出た時期もあった。音楽配信、動画共有、ブログ、フォトアルバム——あらゆる機能を備えた「ソーシャルメディアの代名詞」として、MySpaceは事実上のスタンダードになっていた。

このころのMySpaceは、ミュージシャンにとっての登竜門でもあった。アークティック・モンキーズ、リリー・アレン、コルビー・キャレイなど、数多くのアーティストがMySpace上で楽曲を公開し、レコード会社と契約する前にファンベースを獲得した。SNSが「インディーズ音楽の発見」というカルチャー的な役割まで担っていた時代だ。News Corpはこの勢いをもって、MySpaceを「次のテレビ」と位置づけ、収益化を急ぐ方針へ舵を切った。

出典: Wikipedia「Myspace」 / BBC News「How did Myspace lose 10 million users?」 / The Guardian「Myspace - what went wrong」

2. ユーザー体験の劣化——広告過剰・ページの遅さ・カオス化したデザイン

News Corp傘下に入ったMySpaceは、短期収益の最大化を求められるようになった。マードックの経営方針は明確だった——「広告で稼げ」。これに応える形で、MySpaceのページには大量のディスプレイ広告、ポップアップ広告、自動再生される動画広告が次々と追加された。ユーザーがプロフィールページを開くと、複数の広告バナーがコンテンツを覆い、サイドバーには関連性の低い広告が埋め尽くされる状態になった。

広告の増加に伴って、ページの読み込み速度も顕著に悪化した。当時のブロードバンド回線でも、MySpaceのプロフィールページが完全に表示されるまでに10秒以上かかることが珍しくなかった。ユーザーがHTMLでカスタマイズした重い背景画像、音楽プレーヤーの自動再生、アニメーションGIFの大量読み込みが、これに追い打ちをかけた。「MySpaceは遅い」「広告が邪魔」という不満は、テック系メディアや一般ユーザーの口コミで急速に広まった。

HTMLカスタムによる「自由」は、いつの間にかカオスへと姿を変えていた。ユーザーがコピー&ペーストしたカスタムコードはバグの温床となり、ページレイアウトの崩れ、文字の重なり、再生が止まらない音楽プレーヤーが日常的に発生した。「個性的なページを作れる」という長所が、「使いにくい」「見づらい」という致命的な短所に転じてしまった。

セキュリティ面でも問題が頻発した。HTMLとCSSの自由度が高いがゆえに、フィッシング詐欺、マルウェア配布、なりすましアカウントが多発し、特に未成年ユーザーが性犯罪に巻き込まれる事件が複数報道された。News Corp傘下では事件対応のための体制強化が遅れ、「MySpaceは危険」という印象がメディアで定着していった。家庭の保護者が子どもに「MySpaceは使うな」と禁じるケースも増え、世代的にユーザーが離れていく要因となった。

さらに、News Corpはエンジニアリング組織への投資を抑制した。MySpaceのバックエンドは技術的負債を抱え続け、新機能の開発スピードはFacebookに大きく遅れをとった。社内では「次は何を作るべきか」よりも「いかに既存のページに広告を増やすか」という議論が優先される空気だったと、後年の元社員インタビューで語られている。プロダクトの根本的な改善より、四半期の広告売上が優先される——News Corpの伝統的なメディア企業としての経営判断が、テック企業としてのMySpaceの成長余地を奪った。

出典: The Guardian「Myspace - what went wrong」 / BBC News「How did Myspace lose 10 million users?」

3. Facebookへの敗北——オープンプラットフォーム戦略との差

MySpaceがNews Corp傘下で「広告ポータル化」を進めていた同じ時期、Facebookは正反対の戦略を取っていた。マーク・ザッカーバーグは「ユーザー体験こそが最優先」という思想を一貫して貫き、UIをシンプルに、ページの読み込みを高速に保つことに注力した。Facebookのプロフィールページは、誰のものを見ても同じレイアウトで、誰でも一目で情報を把握できるように設計されていた。

2007年5月、FacebookはF8カンファレンスで「Facebook Platform」を発表した。サードパーティの開発者が自由にアプリを作り、Facebook上で公開・配信できるオープンプラットフォーム戦略だ。これにより、ゲーム、メッセージング、写真共有など、ユーザーが必要とする機能を外部の開発者が次々に提供するようになり、Facebookは「コミュニケーションのインフラ」へと進化した。Zyngaの『FarmVille』のような大ヒットアプリは、Facebookのユーザー滞在時間を一気に伸ばした。

一方のMySpaceは「閉鎖的な囲い込み」の方向に進んだ。外部開発者にAPIを開放することには消極的で、すべての機能を自社で開発しようとした。News Corp傘下の縦割り組織では機能リリースのスピードが遅く、Facebookが半年で実装した機能をMySpaceは1〜2年かけても出せなかった。技術的な前提条件の選択(自社開発か外部開放か)が、最終的なエコシステムの広がりを決めた。

2008年4月、Facebookは月間アクティブユーザー数でMySpaceを世界規模で抜いた。米国市場でも2008〜2009年にかけて両者の立場は逆転した。Facebookの実名登録制度は「友人や同僚との安全なつながり」を実現し、保護者にも安心感を与えた。これに対しMySpaceの匿名性とカスタマイズ自由度は「危ない・うるさい・遅い」というイメージとセットで語られるようになった。

ユーザーは一度離れ始めると戻ってこなかった。SNSはネットワーク効果が極めて強い世界で、「友達がいるところ」が「最も価値のある場所」になる。Facebookに友人が移ったユーザーは、わざわざMySpaceに留まる理由を失った。2010年にはMySpaceの米国月間ユーザー数は約4000万人まで減少し、ピークから半減した。News Corp内部では「MySpaceは負け戦」という認識が広がっていった。

出典: Wikipedia「Myspace」 / TechCrunch「News Corp Sells Myspace To Specific Media For $35 Million」 / The Guardian「Myspace - what went wrong」

4. 5.8億ドルが3500万ドルへ——Justin Timberlake参加の売却(2011年)

2011年に入ると、News Corp内部ではMySpaceの売却または閉鎖が真剣に検討されるようになった。広告売上は急減し、ユーザー数も底が見えない減少を続けていた。News Corpはこの間にMySpaceに対して大幅な人員削減と組織再編を繰り返したが、効果は出なかった。マードックはのちにアナリスト向け説明会で「MySpaceの買収は完全な失敗だった」と公に認めている。

2011年6月29日、News CorpはMySpaceをデジタル広告会社Specific Mediaに3500万ドルで売却すると発表した。買収当時の5億8000万ドルから、わずか6年で約6%の価値にまで毀損した計算になる。News Corpはこの売却に伴って、買収以降に蓄積された損失を含めると総額で10億ドル以上の損失を計上したと報じられている。テレビ・新聞でメディア帝国を築いたマードックの「デジタル戦略の象徴」は、こうして終焉を迎えた。

新しい所有者であるSpecific Mediaの売却発表には、人気歌手・俳優のジャスティン・ティンバーレイクが出資者・共同経営者として参画することが大きく報じられた。「MySpaceを音楽・エンタメ系のクリエイター向けSNSとして再生する」というコンセプトで、音楽配信機能や動画機能を中心に再起を図った。話題性はあったものの、すでに失われたネットワーク効果を取り戻すことはできなかった。

その後MySpaceは数度の所有者変更を経験する。2016年にはTime Inc.が買収し、2018年にはMeredith Corporationを経由してさらに別の所有者に渡った。2019年3月には、2003〜2015年にユーザーがアップロードした5000万曲以上の音楽データが、サーバー移行時のミスで失われたことが報じられ、世界中のミュージシャンを落胆させた。「インディーズ音楽の聖地」と呼ばれた時代の貴重なアーカイブが、こうして消えた。

現在のMySpaceは、音楽・エンタメ系の小規模SNSとして細々と存続している。月間ユーザー数はピーク時の数十分の一以下と推定され、世界SNSランキングからは完全に姿を消した。News Corpがかつて「テレビの次のメディア」と位置づけた企業の、栄枯盛衰のひとつの結末だ。

出典: TechCrunch「News Corp Sells Myspace To Specific Media For $35 Million」 / The Guardian「Myspace loses all content uploaded before 2016」 / BBC News「Myspace admits losing 12 years' worth of music uploads」

5. 中小企業経営者が学べること

MySpaceの転落は「IT業界の特殊な事例」ではない。プロダクトの本質を見失う罠、短期収益を優先する経営判断、ユーザー体験の劣化に気づけない組織——どれも規模を問わず経営者が陥りやすい普遍的な失敗パターンだ。

教訓1:短期収益の最大化はプロダクトを殺す

News Corp傘下のMySpaceは、四半期の広告売上を伸ばすために、ページに大量の広告を詰め込んだ。短期的には売上は伸びたが、ユーザー体験は確実に劣化し、長期的なユーザー離れを招いた。顧客が離れた後に売上は守れない。 製品・サービスの品質を犠牲にした短期収益化は、必ず後で代償を払うことになる。中小企業でも、コスト削減や値上げで一時的に利益が改善しても、顧客満足度を下げれば翌期以降に売上が崩れる例は珍しくない。

教訓2:「自由」と「使いやすさ」はトレードオフ

MySpaceがユーザーに与えた「HTMLでの自由なカスタマイズ」は、初期には差別化要因として機能した。しかし、ユーザーが増えるにつれて「自由」は「カオス」になり、ページの遅さやデザインの混乱を生んだ。機能の足し算は簡単だが、引き算は難しい。 自社サービスや製品で「お客様の要望」をすべて取り入れた結果、使いにくい複雑な製品ができあがってしまっていないか。シンプルさを守ることは、ユーザー体験を守ることに直結する。

教訓3:プラットフォーム化を恐れるな

Facebookは外部開発者にAPIを開放し、エコシステムを広げた。MySpaceは自前主義に固執し、機能リリースのスピードで決定的に遅れをとった。「すべて自社で作る」という発想は、変化の速い業界では致命傷になる。 中小企業でも、自社のサービスを外部のパートナーやサプライヤーと連携可能な形にすることで、顧客への価値提供を加速できる。閉じる戦略と開く戦略の選択が、市場での立ち位置を決める。

教訓4:先行者優位は永遠ではない

MySpaceは2003〜2008年まで世界最大のSNSだった。それでも、新興のFacebookに5年でユーザーを奪われ、6年で時価評価が94%蒸発した。「業界トップだから安泰」という時代は終わっている。 市場のリーダーであっても、後発のスタートアップが新しい技術や戦略でルールを変えれば、立場はあっという間に逆転する。地位の安定を前提にした経営判断は、変化に対する備えを怠らせる。常に「明日、競合が新しいものを出してきたら」という想定で動く緊張感が必要だ。

出典: BBC News「How did Myspace lose 10 million users?」 / The Guardian「Myspace - what went wrong」

6. IT・サービス事業の競争力強化に使える補助金

MySpaceが直面した「プロダクト改善の遅れ」「短期収益優先による技術投資の不足」「新規競合への対応力低下」は、現代の中小企業がデジタルサービスやWeb事業で抱える課題と重なる。国は、こうした課題に取り組む企業を後押しするための補助金制度を用意している。

制度名 補助上限・内容 活用場面
新事業進出補助金 最大9,000万円(大幅賃上げ特例適用時) 既存サービスから新領域・新ビジネスモデルへの転換
ものづくり補助金 最大1,250万円〜2,500万円(規模により異なる) 新サービス開発、システム刷新、独自プロダクト開発
IT導入補助金 最大450万円 SaaS導入、業務システム刷新、ECサイト構築
DX補助金(自治体実施) 自治体により異なる(数十万〜数百万円) 業務のデジタル化、顧客接点のオンライン化

MySpaceの教訓を踏まえると、特に注目すべきは「新事業進出補助金」「ものづくり補助金」だ。

新事業進出補助金は、従来のビジネスモデルから大きく変革する際の投資を幅広く補助する制度だ。広告依存モデルからサブスクリプションモデルへの転換、BtoC事業からBtoBサービスへの展開、リアル中心の事業からオンラインサービス事業への進出など、ビジネスモデルそのものを変える挑戦に使える。「現在の収益源が縮む前に次の柱を育てる」——それがMySpaceに欠けていた視点であり、この補助金を使って先手を打てるかどうかが勝負だ。

ものづくり補助金は、新製品・新サービスの開発や、独自のシステム・プロダクトの刷新に使える制度だ。コモディティ化が進んだ既存サービスを、独自技術や独自体験を組み合わせた付加価値の高いサービスへ進化させる場面で活用できる。MySpaceが「広告ポータル化」で安易な収益化に走ったのとは対照的に、プロダクトそのものへの再投資を続けることが、長期的な競争力を生み出す。

IT導入補助金とDX補助金は、業務効率化と顧客体験の改善の両方に使える。MySpaceの失敗の本質は「ユーザー体験を犠牲にした収益化」だったが、IT導入補助金を活用すれば、顧客接点の改善・サービス品質の向上・業務スピードの加速を同時に実現できる。新規開発の余力がない中小企業ほど、既存のSaaSやクラウドサービスをうまく組み合わせることが競争力を左右する。

出典: 中小企業庁 事業再構築補助金 / 中小企業庁 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 / 中小企業庁 IT導入補助金

まとめ:MySpaceが教えてくれる「プロダクト経営の本質」

  • MySpaceは2003年米国カリフォルニアで創業、2005年にNews Corpが5億8000万ドルで買収
  • 2008年4月に月間アクティブユーザー7600万人で世界最大SNSの座に到達
  • News Corp傘下で広告過剰・ページの遅さ・カスタムの混乱が進み、ユーザー体験が著しく劣化
  • Facebookはオープンプラットフォーム戦略でエコシステムを広げ、2008年にMySpaceを世界規模で抜いた
  • 2011年6月、News CorpはSpecific Media(Justin Timberlake参画)に3500万ドルで売却。買収額の約6%にまで価値が毀損
  • 教訓:短期収益優先がプロダクトを殺す・自由と使いやすさのトレードオフ・プラットフォーム化を恐れない・先行者優位は永遠ではない
  • 新事業進出補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金を活用し、ビジネスモデルとプロダクトへの再投資を続けることが重要

参考資料
Wikipedia「Myspace」
BBC News「How did Myspace lose 10 million users?」
The Guardian「Myspace - what went wrong」
TechCrunch「News Corp Sells Myspace To Specific Media For $35 Million」
The Guardian「Myspace loses all content uploaded before 2016」
BBC News「Myspace admits losing 12 years' worth of music uploads」

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この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

X-HACK Inc. 代表取締役。システムコンサルタントとして中小企業の基幹システム構築・業務設計に携わったのち、自ら起業。小規模ビジネスの立ち上げから黒字化までを複数回経験し、採用・資金調達・補助金申請の実務にも精通。「補助金さがすAI」の開発・運営を通じて、経営者が本当に必要とする情報を現場目線で発信しています。

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