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イーロン・マスク(SpaceX・テスラ)|ロケット3連続爆発、全財産を4回目に賭けた男の「異常な情熱」

イーロン・マスク(SpaceX・テスラ)|ロケット3連続爆発、全財産を4回目に賭けた男の「異常な情熱」

2008年8月、南太平洋の孤島クワジャリン環礁。イーロン・マスクが創業したSpaceXの小型ロケット「ファルコン1」が、3回目の打ち上げに失敗しました。2006年からの3連続爆発。同時にTeslaも資金ショート寸前。マスクの手元に残った資金は約3,000万ドル——それを2社に分けて投入し、文字通り「最後の1発」に人生を賭けた男がいます。現在、Teslaの時価総額は1兆ドル超(約150兆円超)、SpaceXの評価額は3,500億ドル超。世界で最も資産を持つ人物は、かつて破産の淵に立っていました。

南アフリカからシリコンバレーへ——「ここではないどこか」を求めた少年

イーロン・マスクは1971年、南アフリカ・プレトリアで生まれました。父は電気機械エンジニア、母はカナダ出身のモデル兼栄養士。少年時代は読書に没頭し、10歳で独学でプログラミングを始め、12歳で自作のビデオゲーム「Blastar」を500ドルで雑誌社に売却しています。

しかし南アフリカでの生活は平穏ではありませんでした。学校ではいじめに遭い、一度は階段から突き落とされて入院。アパルトヘイト体制下の徴兵義務を拒否するため、17歳で単身カナダへ渡る決断をします。母方の国籍を頼りに、まず農場や木材工場で肉体労働をしながら大学に通い、その後アメリカのペンシルベニア大学に編入。物理学と経済学の2つの学位を取得しました。

1995年、スタンフォード大学の物理学博士課程に入学しますが、わずか2日で中退。「インターネットは物理学よりも社会を変える」と確信し、弟のキンバルとともにWeb企業Zip2を創業します。オフィスを借りる金がなく、小さなオフィスに住み込み、YMCAでシャワーを浴びる生活でした。

1999年、Zip2をコンパック社に3億700万ドルで売却。マスクの取り分は2,200万ドル(約33億円)。24歳にして億万長者になりましたが、マスクはその資金の大半を次の事業に投入します。オンライン決済サービスX.com(のちのPayPal)を創業し、2002年にeBayに15億ドルで売却。最大株主だったマスクは約1億7,580万ドルを手にしました。

(出典: Wikipedia「Elon Musk」、Britannica「Elon Musk」)

「人類を火星に」——SpaceX創業と3連続爆発

普通の起業家なら、PayPal売却の1億7,000万ドルで悠々と暮らすでしょう。しかしマスクが選んだのは、「人類を多惑星種にする」という壮大すぎる目標でした。

2001年、マスクはロシアを訪問し、大陸間弾道ミサイルの転用ロケットを購入しようとします。しかし交渉は決裂。帰りの飛行機の中で、マスクはスプレッドシートを開き、ロケットの原材料費を計算し始めました。結論は——「自分で作ったほうが安い」。

2002年3月、SpaceX(Space Exploration Technologies)をカリフォルニア州エルセグンドに設立。PayPal売却益から1億ドル(約150億円)を投じました。当時、民間企業がロケットを作るという発想自体が「正気の沙汰ではない」と見なされていた時代です。

最初のロケット「ファルコン1」の打ち上げは、すべて失敗に終わります。

第1回(2006年3月) エンジンの燃料漏れにより、打ち上げ25秒後に爆発
第2回(2007年3月) 第2段エンジンの制御不能により、軌道投入に失敗
第3回(2008年8月) 第1段と第2段の分離タイミングのずれで衝突、爆発

3回目の失敗は特に壊滅的でした。NASAとDARPAから預かっていた衛星も失われたのです。マスクは後にこう語っています——「悪夢にうなされ、叫び声を上げながら目が覚めた。体が物理的に痛かった」。

(出典: Wikipedia「Falcon 1」、CNBC「SpaceX nearly failed itself out of existence」)

残り3,000万ドルを2社に分けた——「最後の1発」の決断

2008年秋、マスクは人生最大の危機に直面していました。

SpaceXはロケット3連続爆発で資金が底をつきかけ、同時にTeslaも2008年のリーマン・ショックの直撃を受けて資金調達が頓挫。最初の量産車「ロードスター」の生産は遅延し、メディアは「Tesla死亡監視」と題した連載を始めていました。マスク自身も離婚訴訟の渦中にありました。

SpaceXとTesla、2つの会社が同時に破産の瀬戸際にある。マスクの手元に残った資金は約3,000万ドル。普通なら片方を諦めるところです。

マスクは3,000万ドルを2社に分けて投入しました。どちらも諦めなかった。

そして2008年9月28日、ファルコン1の4回目の打ち上げが行われました。「これが最後の資金だった」とマスクは後に語っています。ロケットは予定通りに上昇し、第1段を切り離し、第2段エンジンが点火——軌道投入に成功。民間企業が液体燃料ロケットで軌道に到達した、史上初の瞬間でした。

この成功が呼び水となり、同年12月、NASAは国際宇宙ステーションへの物資輸送契約(商業補給サービス)として16億ドル(約2,400億円)をSpaceXに発注。会社は一命を取り留めました。

Tesla側も、12月にかろうじて4,000万ドルの追加融資を確保し、倒産を回避。マスクは10月にCEOに就任し、従業員の25%を解雇するという苦渋の決断を下しています。

(出典: ScienceAlert「How SpaceX Went From 3 Failed Launches」、Wikipedia「History of Tesla, Inc.」)

「プロダクション・ヘル」——工場の床で寝る男

2008年の危機を乗り越えたTeslaは、2012年に「モデルS」、2015年に「モデルX」を発売し、高級EVメーカーとしての地位を確立します。しかし、マスクの情熱が最も鮮明に表れたのは、2017年から2018年にかけての「モデル3」量産危機でした。

モデル3はTesla初の量販車。価格3万5,000ドルという「庶民が買えるEV」として、予約は50万台を超えました。しかし、量産ラインの立ち上げは想像を絶する困難を極めます。自動化ロボットは期待通りに動かず、2018年第1四半期の生産台数は目標の半分以下。マスク自身がこの時期を「プロダクション・ヘル(生産地獄)」と呼んでいます。

マスクの対応は異常でした。

  • カリフォルニア州フリーモント工場の床で寝泊まりした — 会議室のソファが狭すぎて、文字通り床で寝た
  • 5日間同じ服を着続けた — シャワーを浴びに帰る時間すら惜しんだ
  • 「自分の環境を、社内の誰よりも悪くしたかった」 — 工場の向かいにホテルはあったが、あえて使わなかった

なぜそこまでするのか。マスクはBloombergのインタビューでこう答えています——「ホテルに行けなかったのではない。わざと自分の状況を会社の誰よりも悪くしたかった」。経営者が最も過酷な環境に身を置くことで、全従業員に「本気」を示す。それがマスク流のリーダーシップでした。

この「生産地獄」を乗り越え、2018年第3四半期にモデル3は週5,000台の生産目標を達成。以後、Teslaの株価は急上昇し、2020年にはトヨタを抜いて自動車メーカー時価総額世界一に到達しました。

(出典: CNBC「Elon Musk says he is sleeping on Tesla factory floor」、Yahoo Finance「Elon Musk said he slept on the floor」)

「異常な情熱」の正体——なぜマスクは止まらないのか

イーロン・マスクの行動パターンには、一貫した特徴があります。

場面 普通の判断 マスクの判断
PayPal売却後 資産を守って引退 全額をロケットとEVに投入
ロケット3連続爆発 撤退して損切り 残金を4回目に賭ける
2008年の資金危機 片方の会社を諦める 3,000万ドルを2社に分けて投入
モデル3生産危機 現場に任せて報告を待つ 工場の床で寝る

共通するのは、「撤退」という選択肢が存在しないという点です。

マスクにとって、SpaceXは「ロケット会社」ではありません。「人類を多惑星種にするための手段」です。Teslaは「自動車会社」ではなく、「持続可能なエネルギーへの移行を加速する手段」です。手段が失敗しても、目的は変わらない。だからロケットが3回爆発しても、4回目に賭けられる。

ゼンショーの小川賢太郎氏が牛丼を「人類の叡智の結晶」と信じたように、マスクは「火星移住」と「持続可能エネルギー」を本気で信じている。自分の事業に対する確信が、常識的な損切りラインを無効化している——それが、マスクの「異常な情熱」の正体です。

ただし、マスクの情熱は「信念」だけで動いているのではありません。ロシアでロケットを買えなかった帰りの飛行機で、スプレッドシートを開いて原材料費を計算した。工場の床で寝ながら、生産ラインのボトルネックを一つずつ潰していった。「異常な情熱」の裏には、徹底した合理性がある。それが、単なる無謀と、結果を出す狂気の違いです。

中小企業経営者が学べること

もちろん、すべての経営者がイーロン・マスクになれるわけではありませんし、なる必要もありません。しかし、マスクの行動原理から学べることは明確です。

  • 失敗を「データ」として扱う — ロケット3連続爆発は、SpaceXにとって「3回分の実験データ」でした。4回目の成功は、失敗から得た知見の集積です。事業がうまくいかないとき、それは「失敗」ではなく「検証結果」です
  • 危機のときこそ現場に立つ — マスクは工場の床で寝ることで、生産ラインのボトルネックを自分の目で確認しました。経営者が現場から離れるほど、問題の発見は遅れます
  • 「どちらか」ではなく「両方」を選ぶ勇気 — 2008年、SpaceXとTeslaのどちらかを諦めるのが合理的でした。しかしマスクは両方に賭けた。限られた資源をどう配分するかは、経営者にしかできない判断です
  • 情熱と合理性を両立させる — 「火星に行きたい」は情熱。「ロケットの原材料費をスプレッドシートで計算する」は合理性。どちらか一方では事業は成り立ちません

まとめ

イーロン・マスクは、PayPal売却で得た資産のほぼすべてを「ロケット」と「電気自動車」という、当時誰もが不可能と考えた2つの事業に投じました。

ロケットは3回連続で爆発し、Teslaは破産寸前に追い込まれ、離婚訴訟まで重なった2008年。それでもマスクは残りの3,000万ドルを2社に分けて投入し、4回目のロケットを飛ばしました。モデル3の「生産地獄」では、工場の床で寝て、5日間同じ服を着続けた。

「撤退」という選択肢がない人間は、傍から見れば異常です。しかし、その異常さだけが、不可能を可能にすることがあります。

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

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