本文へ移動

公開 · 更新

創業ストーリー 経営者向け

ジャック・ドーシー|友人の「カード決済できない」の一言から生まれたSquare革命

ジャック・ドーシー|友人の「カード決済できない」の一言から生まれたSquare革命

2008年のクリスマス、セントルイスの実家。Twitterの共同創業者ジャック・ドーシーは、人生の転機にいました。自ら立ち上げたTwitterのCEOを解任されたばかり。次に何をすべきか模索する中、友人のガラス工芸家ジム・マッケルビーが2,000ドルの取引を逃したと嘆きました。理由は——「クレジットカード決済ができなかった」。その一言から、ドーシーは翌日にはiPhoneに差し込む小さなカードリーダーの構想を始めていました。それがSquare(現Block)です。

配車システムに魅せられた少年

ジャック・ドーシーは1976年、ミズーリ州セントルイスで生まれました。父のティムはマクドネル・ダグラス社(現ボーイング)で質量分析計の開発に携わるエンジニア、母のマーシャは主婦でした。イタリア系とアイルランド系のカトリックの家庭で育ちます。

幼い頃のドーシーは地図に取り憑かれた子どもでした。セントルイスの道路地図を広げ、何時間も街の構造を眺めていた。バスの路線図、鉄道の時刻表、街区の区画——「都市の中をモノや人がどう動くか」への興味は尽きることがありませんでした。

もう一つの原体験は、父親が持っていた警察用無線受信機(ポリススキャナー)です。少年ドーシーはこの受信機で、救急車やパトカーの配車指示を傍受しては聴き入りました。「無線で短い指示が飛び交い、車が動く」——この体験が、「短い情報をリアルタイムで発信して、人やモノを動かす」という発想の原点になります。

ドーシーには幼少期から吃音(きつおん)がありました。言葉がうまく出てこない苦しさは、後にドーシーを「最小限の言葉で最大限を伝える」ことへの執着に導きます。140文字のTwitter、一つの白い正方形のSquareリーダー——ドーシーの製品はすべて「余計なものを削ぎ落とす」デザインです。吃音を克服するために取り組んだ演劇も、後のプレゼンテーション力の基盤になりました。

14歳でタクシーの配車ソフトウェアを独自に開発。ポリススキャナーで学んだ「無線で指示を出し、車を動かす」構造をプログラムに落とし込んだもので、一部のタクシー会社で実際に使われました。さらに高校時代にはパンクロックに傾倒し、ファッションデザインにも強い関心を持っていました。エンジニアリングとアートの両方に惹かれる——この二面性が、後のドーシーの製品設計の美学を形作ります。

ニューヨーク大学に進学するも中退し、シリコンバレーへ。ポッドキャスト会社Odeoに入社した2005年、同僚のエヴァン・ウィリアムズやビズ・ストーンとともにTwitterを構想します。2006年3月21日、ドーシーが最初のツイートを投稿——「just setting up my twttr(twttrを設定中)」。

(出典: Wikipedia「Jack Dorsey」、Marketplace「Jack Dorsey: Twitter co-founder, Square CEO」)

Twitter CEO解任——「自分の会社」を追われる

TwitterはたちまちSNSの新潮流として注目を集めますが、急成長に経営が追いつきませんでした。サーバーは頻繁にダウンし、収益モデルも確立されていなかった。2008年10月、取締役会はドーシーをCEOから解任し、共同創業者のエヴァン・ウィリアムズを後任に据えます。

スティーブ・ジョブズがAppleを追われたのと同じ構図です。自分が創業した会社のトップの座を、自分が連れてきた仲間に奪われた。ドーシーは32歳でした。

しかしドーシーは、この「空白の時間」を次の創業に使いました。

2,000ドルの取引を逃した友人——Square誕生の瞬間

2008年末、友人のジム・マッケルビーはガラス工芸家として活動していましたが、ある日2,000ドルの蛇口とガラス細工の商談がまとまりかけます。しかし、クレジットカード決済に対応していなかったため、取引は流れてしまいました。

「なぜ個人や小さな店がカード決済を受けられないんだ?」

— この問いが、Squareのすべての出発点

当時、クレジットカード決済端末の導入には高額な初期費用と複雑な審査が必要で、個人事業主や小規模店舗にはハードルが高すぎました。ドーシーはこの問題を即座に「解くべき課題」として捉えます。

マッケルビーがiPhoneのイヤホンジャックに差し込める小さな磁気カードリーダーのハードウェアを試作し、ドーシーが決済処理のサーバーサイドソフトウェアを書きました。2009年にSquareを正式に設立。iPhoneに小さな白い正方形のデバイスを差すだけで、誰でもカード決済を受けられる——そのシンプルさが革命でした。

Squareの初期ユーザーは、まさにマッケルビーのような人々でした。フリーマーケットの出店者、フードトラックの店主、個人の美容師。「大企業しかできなかったこと」を「誰でもできる」に変えたのがSquareの本質です。

(出典: CNBC「How Jack Dorsey grew Square」、Wikipedia「Block, Inc.」)

中小企業経営者が学べること

  • 身近な「不満」にビジネスチャンスがある — 友人の「カード決済ができない」という一言が、時価総額数百億ドルの企業を生みました。顧客の日常的な不満は、最高の事業アイデアの宝庫です
  • 解任・失敗は「次の挑戦」の準備期間 — Twitter CEO解任があったからこそ、Squareが生まれた。挫折は終わりではなく、新しい視点を得る機会です
  • 「大企業しかできないこと」を民主化する — カード決済は大企業の特権でした。それを「誰でもできる」に変えたことがSquareの価値。あなたの業界にも、「大手しかできない」と思い込まれていることがあるかもしれません
  • 問題に気づいたら即座に動く — ドーシーは友人の不満を聞いた翌日にはソリューションの構想を始めていた。スピードは、アイデアの鮮度を保つ最大の武器です

まとめ

ジャック・ドーシーは、Twitterを追われた後、友人の「カード決済ができない」という一言からSquareを創業しました。

14歳のタクシー配車ソフト、Twitterの140文字、Squareの小さなカードリーダー——ドーシーの「異常な情熱」は、「複雑なものをシンプルにする」ことに向けられています。身近な不満の中に、次のビジネスの種が眠っているかもしれません。

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

あわせて読みたい

コラム ·

ChatGPTを全社導入しても「AI導入」は終わっていない――ツール配布とAIネイティブな組織の間にある段差

帝国データバンクの2026年3月調査では生成AIを活用する企業の86.7%が「効果あり」と答えましたが、用途の最多は文章の作成・要約でした。PwCの6カ国調査では日本の推進度は米国並みの87%なのに、期待を大きく上回る効果は9%(米国38%)。McKinseyやHBRのデータもあわせ、ChatGPTやClaudeの契約で「AI導入が進んだ」と感じてしまう理由と、業務・役割・確認の仕組みをAI前提で組み直す「AIネイティブな組織」への段差を整理し、電話窓口を例に最初の一歩を考えます。

コラム ·

中小企業のシステム導入、最多の失敗は「遅延」ではなく「後出しコスト」――3つの原因は発注側の“空席”に行き着く

btobeeが2026年7月に公表した中小企業経営者・役員300人の調査では、システム導入企業の53.2%が失敗やトラブルを経験し、最多は後出しコストによる予算超過(40.0%)、遅延は33.3%でした。JUASの規模別データや海外の大規模IT調査と比べながら、なぜ中小企業では「遅れる」より「膨らむ」のか、人材不足・目的の共有不足・PM不在という3つの原因に共通する欠落は何かを整理し、契約前に決めておくべきことをまとめます。

コラム ·

刃物を渡されたロボットは、危険な指示にどれだけ「ノー」と言えるか──最新ベンチマークが示した現実

独立評価団体Robocurveが2026年9月に公開したベンチマーク「RoboHarm」によれば、OpenAIのGPT-6 Astraは危険な指示100回中97回でロボットアームを動かし60回完遂、安全上の拒否はわずか2回でした。AnthropicのClaude Fable 5.1は刺傷タスクは全拒否した一方、他4タスクは一度も拒否せず34回完遂。生データまで遡って検証し、ロボット・AIエージェント導入時に経営者が確認すべき安全性のポイントを整理します。