M&Aの営業電話が急増中|中小企業経営者が知っておくべき5つの注意点
「御社を買いたいという企業があります」「資本提携に興味のある会社をご紹介できます」――最近、こうした電話を受ける中小企業経営者が急増している。背景にはM&A市場の拡大があるが、すべての電話が善意とは限らない。中小企業庁にも苦情が寄せられ、2024年8月には「中小M&Aガイドライン」が改訂された。この記事では、M&A仲介業者の営業電話の実態と、経営者が身を守るための5つの注意点を解説する。
なぜ今、M&Aの営業電話が急増しているのか
日本のM&A市場は過去最高水準にある。2024年の日本企業のM&A件数は約4,700件で過去最多を記録し、2025年は11月末時点で前年通期に並ぶペースで推移、通期では5,000件超に達すると見られている。取引金額も2025年11月末時点で35兆円を超え、過去最高を大幅に更新した。
この拡大を支えるのが、中小企業の後継者問題だ。中小企業庁によると、2025年までに経営者が平均引退年齢の70歳を超える企業は約245万社。そのうち約127万社が後継者不在とされ、M&Aは廃業を防ぐ有力な選択肢として注目されている。
この巨大な需要に目をつけ、M&A仲介業者が急増した。中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録された業者だけでも約3,000件(2025年4月時点で2,952件)。未登録の業者を含めれば、数千社がしのぎを削る状態だ。結果として、帝国データバンクなどの企業データベースをもとにした大量の営業電話が中小企業に殺到している。
| M&A件数(2024年) | 約4,700件(過去最多) |
|---|---|
| 取引金額(2025年11月末) | 35兆円超(過去最高を大幅更新) |
| 後継者不在企業数 | 約127万社(245万社中) |
| 登録M&A支援機関数 | 約3,000件(2025年4月時点で2,952件) |
出典:レコフデータ「グラフで見るM&A動向」、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」公表資料
M&A仲介業者のビジネスモデルを知る
営業電話の裏側を理解するには、M&A仲介業者のビジネスモデルを知ることが重要だ。
多くのM&A仲介会社は「成功報酬型」を謳っている。一見、成約しなければ費用が発生しないように見えるが、実際には「着手金」「月額報酬(リテーナーフィー)」「中間金」「成功報酬」の4段階で費用が発生するケースが多い。
成功報酬の計算には「レーマン方式」と呼ばれる料率体系が一般的に使われる。取引金額に応じて5%〜1%の逓減料率が適用されるが、ここに落とし穴がある。
| 取引金額 | 料率 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超〜10億円以下 | 4% |
| 10億円超〜50億円以下 | 3% |
| 50億円超〜100億円以下 | 2% |
| 100億円超 | 1% |
注意:「最低手数料」の存在
多くの仲介会社は最低手数料(ミニマムチャージ)を500万〜2,500万円に設定している。売却額が1億円でもレーマン方式の計算上は500万円だが、最低手数料が2,000万円なら、実質的な手数料率は20%になる。中小企業のM&Aほど割高になりやすい構造だ。
さらに、仲介会社の多くは「両手仲介」(売り手・買い手の双方から手数料を受け取る)を行う。不動産仲介と同じ構造だが、M&Aには売り手は「高く売りたい」、買い手は「安く買いたい」という明確な利益相反がある。中小企業庁も「中小M&Aガイドライン」で両手仲介の利益相反リスクについて明記し、仲介者に説明義務を課している。
要注意な営業トーク5パターン
M&A仲介業者の営業電話で、特に注意すべきトークパターンを5つ紹介する。
1.「御社を買いたい企業があります」
最も多い営業トーク。しかし、初めて連絡してくる仲介会社が自社の財務状況や企業価値を把握しているはずがない。多くの場合、具体的な買い手候補は存在せず、まず契約を取り付けてから買い手を探すのが実態だ。「本当にいるなら社名を教えてください」と聞くと、ほとんどの場合は答えられない。
2.「今が一番高く売れるタイミングです」
焦りを煽る典型的な手法。確かにM&A市場は活況だが、企業価値は市況だけで決まるものではない。自社の業績・財務状況・業界動向を総合的に判断すべきであり、電話一本で判断するものではない。
3.「成功報酬だけなのでリスクはありません」
成功報酬「だけ」と言いながら、契約書をよく読むと着手金・月額報酬・デューデリジェンス費用が別途かかるケースがある。また、最低手数料の説明が曖昧なまま契約を急がせる業者も少なくない。
4.「まずはお会いして情報交換だけでも」
「情報交換」と称する面談で、秘密保持契約(NDA)と同時に専任アドバイザリー契約へのサインを求められることがある。専任契約を結ぶと、他の仲介会社やFAに依頼できなくなり、条件交渉で不利になるリスクがある。
5.「従業員の雇用を守るためにも早めの決断を」
経営者の責任感に訴えかけるトーク。事業承継は確かに重要な課題だが、M&Aだけが唯一の解決策ではない。親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)、そして計画的な廃業まで、選択肢を比較検討したうえで判断すべきだ。
中小企業庁も動いた:ガイドライン改訂の背景
M&A市場の急拡大に伴い、トラブルも表面化している。特に深刻なのが「不適切な買い手」の問題だ。経営難の中小企業をM&Aで取得した後、売り手企業から資金を吸い取り、経営者保証を外さないまま負債を残して連絡を絶つ――こうした悪質な事案が複数発覚している。
これを受け、経済産業省・中小企業庁は2024年8月30日に「中小M&Aガイドライン」を第3版に改訂した。主な改訂ポイントは以下の通り。
- 買い手調査の義務化 — 仲介者・FAに対し、譲り受け側の調査実施と結果報告を義務付け
- 手数料の透明化 — 登録支援機関に手数料体系の公開を義務付け(2024年8月〜)
- 過剰な営業の規制 — M&A専門業者の過剰な営業・広告に対する規律を明記
- 経営者保証の扱い — 最終契約における経営者保証の調整を仲介者に義務付け
- 不適切行為の情報共有 — 業界内での不適切行為に関する情報共有の仕組みの構築を明記
出典:経済産業省「中小M&Aガイドラインを改訂しました」(2024年8月30日)
営業電話を受けたらまず相談すべき公的機関
M&Aの営業電話を受けて「少し気になる」と思ったとき、いきなり仲介会社と契約するのは危険だ。まずは無料で相談できる公的機関に相談することを強くおすすめする。
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 全国47都道府県に設置。無料でM&A・事業承継の相談が可能。2023年度の成約件数は2,023件(累計10,174件) |
| よろず支援拠点 | 中小企業の経営全般について無料相談。M&A以外の選択肢も含めたアドバイスが受けられる |
| 商工会・商工会議所 | 地元密着の経営相談窓口。顧問税理士・弁護士の紹介も可能 |
| M&A支援機関登録制度 | 中小企業庁が運営する登録制度。手数料体系を事前確認できる |
トラブルに遭ったら
中小企業庁は「M&Aでのトラブルについて、お知らせください」というページで情報提供を受け付けている。また、M&A仲介協会にも苦情相談窓口があり、一定数以上の苦情がある企業には注意喚起等の措置が取られることもある。
M&A・事業承継で使える補助金
M&Aや事業承継を検討する際、費用面のハードルを下げる公的支援がある。特に注目すべきは「事業承継・M&A補助金」(旧:事業承継・引継ぎ補助金)だ。2026年の14次公募では4つの枠が用意されている。
| 支援枠 | 補助上限 | 対象経費 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 800万〜1,000万円 | 承継後の経営革新・設備投資等 |
| 専門家活用枠 | 600万〜800万円 | M&A仲介手数料、DD費用、弁護士費用等 |
| PMI推進枠 | 150万円(専門家活用類型)〜1,000万円(事業統合投資類型・賃上げ加算時) | M&A後の統合(PMI)に係る費用 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 150万円 | 廃業に係る費用 |
特に「専門家活用枠」では、M&A仲介手数料やデューデリジェンス費用が補助対象になる。仲介会社に支払う手数料の一部を補助金でカバーできるため、適正な価格でサービスを受けやすくなる。なお、「100億円企業特例」に該当する場合は最大2,000万円まで上限が引き上げられる。
そのほか、M&A後の設備投資に使える「経営資源集約化税制」(M&A後の設備投資について最大10%の税額控除)や、登録免許税・不動産取得税の軽減措置もある。
まとめ:焦らず情報収集から始める
- M&A市場は過去最高水準。仲介業者も急増し、営業電話が増えている
- 「買い手がいる」「今が売り時」など、焦りを煽る営業トークには要注意
- 仲介手数料はレーマン方式が一般的だが、最低手数料(500万〜2,500万円)で中小企業ほど割高になりやすい
- 両手仲介(売り手・買い手双方から手数料)の利益相反リスクを理解する
- まずは事業承継・引継ぎ支援センター(無料)に相談してから判断する
- 事業承継・M&A補助金(専門家活用枠 最大800万円)で仲介手数料の一部をカバーできる
参考資料
・経済産業省「中小M&Aガイドラインを改訂しました」(2024年8月30日)
・中小企業庁「M&A支援機関登録制度に係る登録FA及び仲介業者の公表」
・中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(2025年5月)
・レコフデータ「グラフで見るM&A動向」
・中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」事業実績
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