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失敗から学ぶ 経営者向け トレンド

Web3バブル顛末記――STEPN・OpenSea・Axieから日本企業の追従失敗まで、藻屑となったサービスとNFT「ただのデータ以下」問題の全記録

Web3バブル顛末記――STEPN・OpenSea・Axieから日本企業の追従失敗まで、藻屑となったサービスとNFT「ただのデータ以下」問題の全記録 - コラム - 補助金さがすAI

2021年から2022年にかけて、暗号資産・NFT・メタバース・Play to Earn といった「Web3」関連のキーワードが世界を席巻しました。ソフトバンクは Sandbox に9,300万ドルを出資し、Nike は RTFKT を買収、楽天・LINE・メルカリ・スクウェア・エニックスといった日本企業も次々と NFT 市場に参入。「次の10年はブロックチェーンが世界を変える」「NFT は所有権の革命だ」と、テック企業から芸能人まで参入を競いました。それから3〜4年。STEPN のトークンは99%下落し、OpenSea の取引高は95%蒸発、世界の NFT コレクションの95%が無価値になり、日本企業の NFT サービスはほぼ全てが店じまいに追い込まれています。本記事では「藻屑となった Web3 サービス」と「後追いした日本企業の失敗事例」、そして「NFT がサービス終了で文字どおり『ただのデータ以下』になった証拠」を、可能な限り具体的な数字とともに記録します。読者の皆さんが「次のバズワード」に同じ轍を踏まないための、現代経営の教訓集としてお読みください。

Web3 とは何だったのか――2021年バブルの全体像

「Web3」とは、ブロックチェーン技術を基盤に「中央管理者なしで価値とデータを所有する次世代のインターネット」を目指す概念で、2014年頃に Ethereum 共同創業者の Gavin Wood が提唱しました。世界的に火が付いたのは2021年です。きっかけは大きく3つ重なりました。

1つ目はNFT バブル。2021年3月、デジタルアーティスト Beeple のNFT作品が Christie's で6,930万ドル(約75億円)で落札され、世界中のメディアが「NFT が新しい資産クラスになる」と報じました。同年8月にはストリート系の Bored Ape Yacht Club(BAYC)の最低価格が0.1ETHから100ETH超に急騰、12月には Adidas が BAYC とコラボして NFT で2,300万ドルを売上ました。

2つ目は暗号資産価格の急騰。Bitcoin は2020年3月の5,000ドル台から2021年11月には69,000ドルのATH(過去最高値)を記録、Ethereum も4,800ドル台に到達。「機関投資家が参入し、暗号資産は資産クラスとして確立した」というナラティブが世界を覆いました。

3つ目はPlay to Earn ブーム。フィリピンを中心に、Axie Infinity というブロックチェーンゲームをプレイすることで月収数百ドルを稼ぐユーザーが急増。「ゲームで生計を立てる」という新しい労働モデルが脚光を浴び、BCG(ブロックチェーンゲーム)への投資が殺到しました。

結果、2021年だけで Web3 関連スタートアップに328億ドル(約3.5兆円)のVC資金が流入。a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)は45億ドルのWeb3専用ファンドを組成、ソフトバンク・ビジョンファンドも複数のWeb3企業に出資しました。

しかし2022年5月の Terra/Luna 崩壊、6月の Three Arrows Capital 倒産、11月のFTX破綻、そして金利上昇による「リスク資産の総崩れ」が連鎖し、Web3 セクターは2023年以降、急速に冷え込みます。本記事ではこの3〜4年で「藻屑」となっていったサービスを、できるだけ具体的に追っていきます。

出典: Christie's: Beeple Auction Result (2021) / a16z Crypto Fund IV (2022)

STEPN崩壊――トークン99%下落とMAU98%減

「歩いて稼ぐ」というキャッチコピーで2021年12月にローンチされた STEPN(ステップン)は、Move to Earn(M2E)の代名詞として一世を風靡したアプリです。NFT スニーカー(13,000円〜数十万円)を購入し、GPS で歩数を計測すると GST(Green Satoshi Token)というトークンを獲得できる仕組みで、最盛期には1日3,000円〜1万円を稼ぐユーザーが続出しました。

2022年4月、STEPN の運営会社 Find Satoshi Lab はシリーズA で500万ドルの資金調達を発表、評価額は10億ドルを超えるユニコーンに。同月、GMT トークンは0.01ドル→4ドル超(400倍)に上昇し、「歩くだけで日収50ドル」のニュースが世界を駆け巡りました。

しかし、その栄光は半年も持ちませんでした。STEPN の収益構造は新規参入者がスニーカーNFTを買い続けることを前提とした「ポンジ的な構造」で、2022年5月の中国市場締め出し(中国本土ユーザーのIPブロック)と Terra/Luna 崩壊による暗号資産下落が重なり、トークン価格と新規ユーザー流入が同時に崩壊しました。

指標 最盛期(2022年4〜5月) 2024〜2025年 下落率
GMT トークン価格 約4.1ドル(586円) 0.04ドル(約6円) -99.0%
月間アクティブユーザー 約300万人 約5万人 -98.3%
1ユーザー1日の稼ぎ 40〜50ドル 数セント -99.9%
スニーカーNFT最低価格 約14 SOL(約14万円) 約0.5 SOL(約7,500円) -95%以上

10万円・20万円でスニーカーNFTを購入したユーザーは、わずか半年で資産価値が10分の1以下に。「靴を履いて歩くだけで稼げる」という当初のうたい文句は、結局「先に始めた人が後から始めた人の資金で潤う」典型的な紹介者連鎖モデルだったことが明らかになりました。

2023年以降も Find Satoshi Lab は MOOAR(NFT マーケット)、Gas Hero(ゲーム)など派生サービスをローンチしますが、いずれも初動を超える盛り上がりは見せていません。Move to Earn 自体が終焉した代表事例として、Web3 失敗史の筆頭に位置付けられています。

出典: CoinGecko: Green Metaverse Token (GMT) Price History / DappRadar: STEPN Activity Report

Axie Infinity――Play to Earnと北朝鮮ハッカーの625億円事件

STEPN と並ぶ Web3 ゲームの象徴が Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)。Sky Mavis(ベトナムのスタートアップ)が2018年にローンチしたNFTモンスターバトルゲームで、2021年のフィリピンを中心とした「Axie で生計を立てる人々」のニュースが世界に衝撃を与えました。

2021年8月、Axie のデイリーアクティブユーザー(DAU)は270万人に到達。SLP(Smooth Love Potion)というゲーム内トークンを稼ぐことで、フィリピンの最低賃金以上の収入を得るユーザーが現れ、Bloomberg や Wall Street Journal が「Play to Earn は途上国の新しい雇用機会」と報じました。Axie の運営は2021年だけで売上13億ドル(約1,800億円)を計上、シリーズB で1.5億ドル(評価額30億ドル)を調達。a16z や Mark Cuban も投資家に名を連ねました。

しかし、2022年3月、Axie の運営する Ronin ネットワークが北朝鮮の Lazarus Group(ラザルス・グループ)によりハッキングされ、6.25億ドル(当時約750億円)相当の資産が流出する事件が発生。これは暗号資産史上最大級のハッキング被害となりました。米財務省は2022年4月、ハッキング犯を Lazarus と特定し、関連ウォレットを制裁対象に指定しています。

同時に、Axie のゲーム内経済も破綻。新規参入者が減ると先行者の収益も減るポンジ構造に加え、SLP トークンの過剰発行(インフレ)が止まらず、SLP は0.4ドル→0.001ドル99%以上下落。フィリピンで Axie で生計を立てていた人々は職を失い、現地メディア Rappler は「Play to Earn は1年で消えた」と総括しました。

指標 最盛期(2021年8〜11月) 2024〜2025年
DAU 270万人 約25万人(-90%)
SLP 価格 約0.4ドル 約0.001ドル(-99.7%)
AXS(ガバナンストークン)価格 約160ドル 約2.5ドル(-98.4%)
Axie NFT 最低価格 200ドル超 1ドル未満(-99%以上)

Sky Mavis は新作 Axie Origin やランドゲームで挽回を図っていますが、最盛期のプレイヤー数には程遠い状況です。「ゲームで生計を立てる」という発想は美しかった一方、その経済モデルが純粋なポンジ構造であったことを世界が学習した、Web3 史の重要な事例です。

出典: U.S. Treasury: Sanctions Lazarus Group (2022) / Bloomberg: Axie Infinity's Ronin Hack (2022)

OpenSea――NFTマーケットプレイスの王座陥落

NFT 取引の世界最大手といえば OpenSea(オープンシー)。2017年に Devin Finzer と Alex Atallah が NY で創業し、2021年から2022年にかけて世界の NFT 取引高の80%を占めた、NFT バブルの中心的存在でした。

2022年1月、OpenSea はシリーズC で3億ドルを調達、評価額133億ドルのデカコーン入りを果たします。Coatue・Paradigm・a16z といった超大手VCが出資、創業者2人は若くしてビリオネアになりました。同月の月間取引高は60.5億ドル(約7,300億円)のピークを記録。社員数も急拡大し、2022年5月には500人体制となりました。

しかし、Terra/Luna 崩壊後の2022年下半期から取引高は急減。2022年7月、OpenSea は社員の20%にあたる約100人を解雇。創業者の Finzer は社内向けの動画で「我々は今、暗号資産の冬を迎えている」と語ります。

事態はそこから悪化の一途を辿ります。Blur や Magic Eden といった「ロイヤリティを払わない」「取引手数料が低い」競合が台頭、OpenSea は2023年8月にロイヤリティを任意化(クリエイターへの還元を実質ゼロ化)するという致命的な決断を下しました。これにより NFT クリエイター層からの反発を招き、市場シェアは急落します。

2023年11月、OpenSea は従業員の50%を解雇と発表、CEO Finzer は「OpenSea 2.0 として再出発する」と宣言しましたが、月間取引高は2025年12月時点で3.03億ドルまで縮小。ピークと比べて95%以上の蒸発です。

指標 2022年1月(ピーク) 2025年12月
月間取引高 60.5億ドル 3.03億ドル(-95%)
企業評価額 133億ドル 非公開(推定数億ドル)
従業員数 約500人 100〜150人
市場シェア 約80% 15〜20%(Blur・Magic Edenに敗北)

OpenSea の没落は、NFT 市場全体が「投機の場」から「死んだ市場」に変わったことの象徴です。中央集権的なマーケットプレイスでありながら手数料収入が消え、競合が現れた瞬間に瞬く間にシェアを奪われた構造は、Web2 のプラットフォーム企業と何ら変わりませんでした。

出典: DappRadar: NFT Marketplace Volume Tracker / The Verge: OpenSea Layoffs (2023)

BAYC(Bored Ape)――1.5億円のサルが90%以上下落

NFT バブルの象徴的存在が Bored Ape Yacht Club(BAYC、退屈なサルのヨットクラブ)。Yuga Labs が2021年4月にローンチした、10,000体のサルのNFTコレクションです。Justin Bieber、ステフィン・カリー、エミネム、ジミー・ファロンといった世界的セレブが所有を公表し、所有者は限定イベント「ApeFest」に招待される、というクローズドな価値設計が話題を呼びました。

2022年5月、BAYC の最低価格は153.7 ETH(当時のレートで約45万ドル / 約6,000万円)のATHを記録。レアな個体はオークションで300ETH(約1.2億円)を超えるものも現れ、「サルの絵が1.5億円」と日本でもニュースになりました。

2022年3月、Yuga Labs はシリーズA で4.5億ドル調達、評価額40億ドル。同年4月には独自の「ApeCoin」を発行し、3月のメタバース「Otherside」のランドセール(NFT土地)で3億ドル超を売上、Ethereum ネットワークが詰まるほどの大盛況でした。

しかし、ここから先の凋落は急速でした。2022年6月以降、暗号資産価格の下落と並行して BAYC の最低価格も下落。2024年には10ETH前後(最盛期比 -93%)に。ドル建てでも40万ドル→3万ドルへと -92.5% 下落しました。

2024年5月、Yuga Labs はオフィスを縮小、従業員の25%(推定60人)を解雇。CEO の Greg Solano は「我々は組織として太りすぎていた」と SNS で告白します。Otherside メタバースは2024年に「Legends of the Mara」をローンチしましたが、初日アクティブユーザーは1,000人未満。3億ドルの土地は文字通り「ただの NFT 」となりました。

もっと象徴的だったのは、2023年に米司法省と SEC が Yuga Labs に対して未登録証券販売の調査を開始したことです。同社は2024年9月、SEC との和解で調査終結を発表しましたが、ApeCoin は2024年で過去最高値の95%下落。BAYC NFT を担保にした融資(NFTfi、Blend など)の連鎖清算も続発しました。

出典: CoinGecko: ApeCoin Price History / NFTPriceFloor: BAYC Floor Price History

The Sandbox / Decentraland――DAU38人のメタバース

2021年10月、Facebook が社名を Meta に変更し「メタバースに未来を賭ける」と宣言したことで、メタバースという言葉が世界を席巻しました。Web3 系メタバースで最も有名だったのが The Sandbox(サンドボックス)Decentraland(ディセントラランド)です。

The Sandbox は香港の Animoca Brands 傘下で、ブロックチェーン上の仮想空間内の「LAND」NFTを販売。2021年11月、ソフトバンク・ビジョンファンドが主導するシリーズB で9,300万ドル(約100億円)を調達、評価額は10億ドル超に。アディダス、Atari、Snoop Dogg、HSBC が LAND を購入し、企業がメタバース上に「店舗」を構える時代が来た、と世界中で報じられました。

Decentraland はアルゼンチン発のプロジェクトで、こちらも仮想土地の NFT を発行。2021年にMetaverse Group がメタバース内の土地を243万ドル(約2.7億円)で購入したニュースは話題を集めました。MANA トークンは2021年11月に5.9ドル ATH を記録、時価総額100億ドル超のプロジェクトに成長します。

ところが2022年10月、CoinDesk が DappRadar のデータを引用して衝撃の事実を報じます。「Decentraland のデイリーアクティブユーザーはたった38人、The Sandbox は522人」――評価額10億ドルを超えるメタバースの中身は、ほぼ無人だったのです。Decentraland 側は「ユニークウォレット数」と「アクティブユーザー」の定義の違いを反論しましたが、実際にログインして遊んでいるユーザーが極めて少ないことは多くの調査で確認されました。

その後の凋落は早く、MANA トークンは 5.9ドル→0.25ドル(-95.7%)、SAND トークンも 8.4ドル→0.21ドル(-97.5%)と暴落。土地NFTは買い手がほとんどおらず、最盛期に数百万ドルで売られた区画が10ドル以下で取引される事例も発生しています。

大企業がメタバース広告に投じた数百億円の予算は、結局「DAU 38人」のサービス上に置かれた看板広告でしかなかった――これは、トレンドに踊らされた経営判断の最たる事例として、世界中の企業に教訓を残しました。

出典: CoinDesk: Decentraland 38 Daily Active Users (2022) / DappRadar: Sandbox / Decentraland Activity Report

Nike RTFKT――大企業ですら撤退

大企業の参入失敗事例として象徴的なのが、Nike の RTFKT(アーティファクト)買収案件です。RTFKT は2020年に立ち上がった、デジタルスニーカーやアバター系NFTを発行するスタートアップ。2021年12月、Nike が買収を発表し(買収額非公開、推定数千万〜数億ドル)、世界の Web3 業界に衝撃が走りました。「Nike までもが Web3 に本気だ」と。

RTFKT は「CloneX」という3DアバターNFTを発行、最盛期には最低価格20 ETH 超(約60,000ドル)の値が付きました。同社の Nike Cryptokicks(デジタルスニーカー)も世界的話題に。Nike は RTFKT を中核に「.SWOOSH」というデジタル資産プラットフォームを2022年11月にローンチし、本気の Web3 参入を見せました。

しかし、2024年12月、Nike は突如「2025年1月をもって RTFKT 事業を終了する」と発表。CloneX と関連 NFT 所有者には支援を続けるとしつつ、新規プロジェクトの停止と中核チームの解散が告知されました。

2025年に Nike は RTFKT 事業を売却(買い手は明らかにされず)、CloneX の最低価格は20 ETH→2 ETH(約-90%)に下落、ドル建てでは 60,000ドル→3,000ドル(-95%)と無残な状況に。Cryptokicks の所有者からは「Nike は我々を裏切った」と SNS 上で激しい抗議が起きました。

世界最大級のグローバルブランドである Nike ですら、本気の投資(推定100億円超のリソース投下)と.SWOOSH プラットフォームによる事業化を図っても3年で撤退という結末――これは「Web3 ブランドコラボでマーケティングが革新される」というバズワードの中身が、実体経済では成立し得なかったことの何よりの証拠です。

出典: Nike: RTFKT Sunset Announcement (2024) / The Verge: Nike to Wind Down RTFKT (2024)

NFTの95%は無価値だった――dappGambl調査の衝撃

NFT が持つ「資産性」を最もシビアな数字で示したのが、ギャンブル/暗号資産情報サイト dappGambl が2023年9月に公表した調査レポートです。

調査対象は世界の73,257 NFT コレクション。その分析結果は衝撃的でした。

  • 69,795コレクション(95.3%)が市場時価総額0ETH — 売り手はいるが、買い手がいない状態
  • 世界で約2,300万人が、ほぼ無価値となった NFT 投資資産を保有している
  • 取引高があるトップ8,850コレクションのうち、最低価格が0.005ETH未満(取引手数料以下)が 18%
  • 「アクティブな取引が確認できる NFT コレクション」は全体のわずか1.5%

これは「NFT は資産だ」「NFT を持つことで富が築ける」というナラティブを真っ向から否定する数字です。実態は、有名なごく少数のコレクション(CryptoPunks、BAYC、Pudgy Penguins など)以外は、二次流通市場でほぼ買い手が付かない、ということです。

さらに2024年に追跡調査を行った Web3 リサーチ企業 Footprint Analytics は、「2021〜2022年に発行された NFT コレクションの97%は、2024年時点で月間取引数1未満」と報告しています。NFT の「リセールバリュー」「資産性」というセールストークは、数字で見れば95〜97%の確率で幻想だったわけです。

個人投資家からは「NFT を100点買って、価値が残ったのは1点だけだった」「合計500万円つぎ込んで残り価値は5万円」といった証言が SNS に溢れました。これは投機商品としても極めて不利な期待値で、宝くじや株式投資と比べてもさらに悪い構造だったことが事後に明らかになっています。

出典: dappGambl: Dead NFTs Report (2023) / Cointelegraph: 95% of NFTs Worthless (2023)

FTX破綻――Web3の信頼を粉砕した暗号資産取引所

NFT 単体の崩壊と並んで、Web3 全体の信頼を破壊した最大の事件が、2022年11月の FTX 破綻です。

FTX は Sam Bankman-Fried(SBF、当時30歳)が2019年に設立した暗号資産取引所で、2021年7月時点で評価額180億ドル、2022年1月のシリーズC では評価額320億ドルに達した、Web3 セクター最大級のスタートアップです。タイガー・グローバル、SoftBank、Sequoia、Temasek(シンガポール政府系)など世界のトップ投資家が出資。SBF は『フォーブス』表紙、米国大統領選の重要献金者、MIT 卒のエリート――2022年中盤までは Web3 業界の「希望の星」でした。

2022年11月2日、CoinDesk が「FTX のバランスシート上、姉妹会社 Alameda Research の資産の大半が FTX 自身の発行する FTT トークンで構成されている」と報じます。これが取り付け騒ぎを誘発、わずか1週間で FTX は破綻します。

  • 負債総額: 約500億ドル(約7兆円)
  • 顧客資産: 約160億ドル(約2.2兆円) — 顧客の預け入れ資産
  • 流用額: 約100億ドル(約1.4兆円) — 顧客資産が SBF 個人や Alameda の投機に流用されていた
  • SBF は2023年11月に詐欺・マネーロンダリング等の罪で有罪判決、2024年3月に 禁錮25年 の刑が確定

FTX 破綻が Web3 全体に与えた打撃は計り知れません。Bitcoin は1.7万ドル台まで下落、Ethereum は1,000ドルを割り込み、暗号資産市場の時価総額は2021年11月のピーク時から2/3が消失しました。BlockFi、Genesis、Voyager Digital といった暗号資産関連企業の連鎖倒産が起き、Web3 セクターのスタートアップ調達額は前年比 -90% にまで減少します。

「ブロックチェーンは信頼不要の透明な仕組み」というナラティブは、結局 FTX という中央集権的な取引所の不正会計と顧客資産流用で破壊された――この皮肉は Web3 の本質的な脆弱性を露呈しました。中央集権を不要とすると言いながら、実際の利用には中央集権的取引所が必須であり、その取引所が破綻すれば全てが消える、という構造的問題です。

出典: U.S. DOJ: SBF Sentenced to 25 Years (2024) / CoinDesk: FTX Collapse Timeline (2022)

日本企業の追従失敗1: LINE NFT/DOSI

ここからは、海外バブルを後追いした日本企業の失敗事例です。最も顕著なケースが、LINE(現 LY Corporation)のLINE NFT / DOSIです。

LINE は2018年から独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」を開発し、2022年4月に NFT マーケットプレイス「LINE NFT」を国内向けにローンチ。同年11月にはグローバル向け「DOSI」(韓国 LINE NEXT 主導)を立ち上げ、両者を独自トークン LINK(後に FNSA、Finschia chain で運用)で接続する野心的な構想を打ち出しました。

2022〜2023年、LINE NFT には日本コカ・コーラ、テレビ朝日、吉本興業、AKB48、Snow Man など主要 IP が参画。「LINE 経由なら誰でも気軽に NFT が買える」という訴求で、国内 NFT 市場を主導するかに見えました。

しかし結末は急展開でした。

時期 出来事
2022年4月 LINE NFT サービス開始
2022年11月 DOSI(グローバル版)サービス開始
2024年1月 LINE NFT サービス終了。DOSI に統合
2025年12月30日 DOSI 完全サービス終了。Finschia チェーンも運用停止

NFT 所有者には「他のチェーンへの移行支援」を案内したものの、Finschia 上の NFT は事実上、サービス終了とともに「動作環境を失った」状態に。LINE 公式画面で見えていた NFT は、Finschia ノードが停止すれば表示すら困難になります。「LINE で買った NFT」がブロックチェーンに記録されているといっても、それを見る・売買するインフラ自体が消滅したわけです。

LINE は2018年からの累計で Web3 関連投資に数百億円規模を投じたとされますが、ほぼ全額が回収不能となりました。LY Corporation は2025年以降、Web3 戦略を大幅縮小、AI 領域へリソースをシフトしています。

出典: LINE NEXT: DOSI Service Termination (2025) / LINE Blockchain Lab Discontinuation Notice

日本企業の追従失敗2: 楽天NFT

もう一つの代表的な失敗事例が 楽天NFTです。楽天は2022年2月にマーケットプレイス「Rakuten NFT」をローンチ、楽天IDで日本円決済(クレジットカード・楽天キャッシュ)でNFTが買える、という「Web2の使いやすさを取り入れた Web3」として華々しく登場しました。

主要IPとして巨人軍(読売ジャイアンツ)公式NFT、ヴィッセル神戸、ウルトラマン、北斗の拳、テレビ局公式タレントなどが参画、楽天モバイル契約者向けに NFT を配布するキャンペーンも展開しました。

ところが、2024年〜2025年にかけて取引数は急減。NFT 二次流通の手数料収入で運営する想定だったマーケットプレイスは赤字化が続き、2025年9月、楽天は「Rakuten NFT」を「みんなのチケット」へとリブランド・大幅刷新すると発表。実質的に NFT マーケット事業の店じまいです。

NFT 所有者は「みんなのチケット」プラットフォームで保有を継続できるとされていますが、二次流通機能は制限され、「NFT のリセールバリュー」を期待した購入者は実質的な売却機会を失いました。

楽天の Web3 投資総額は非公開ながら、楽天ウォレット(暗号資産取引所)の累積赤字は2024年期で40億円超と報告されています(楽天モバイル赤字に隠れて目立たないものの)。エコシステムを構築する野心は、最終的に「ユーザーが買わない、二次流通も成立しない」という現実の前に頓挫しました。

出典: Rakuten NFT: みんなのチケットへのリブランド発表 (2025)

日本企業の追従失敗3: スクエニ資産性ミリオンアーサー

ゲーム業界では スクウェア・エニックスの動きが象徴的でした。同社の松田前社長は2022年の年頭挨拶で「ブロックチェーンが2022年のゲーム業界の大きなトレンド」と Web3 推進を宣言。同年10月、Web3 ゲーム第一弾として『資産性ミリオンアーサー』をローンチします。

「シール」と呼ばれる NFT が手に入り、二次流通でリアル収益が得られるのが売り。ローンチ直後はメディアの注目を集め、初期のシール NFT は数万円で取引されました。

しかし、ゲーム自体のコンテンツ更新が低調で、NFT の希少性も担保しきれず、2024年7月、スクエニは2024年10月15日のサービス終了を発表。わずか2年でクローズです。NFT 保有者は他のゲーム内アイテムへの交換、もしくは保管継続のみで、二次流通市場でのリセールバリューはほぼゼロに。

スクエニは2024年5月に発表した中期経営計画では Web3 関連の表現を大幅に縮小、2025年以降は「ブロックチェーンゲームから AI へ」とリソース配分を切り替えています。CEO 桐生氏(前 CFO 昇格)は「Web3 ゲームは思ったほどユーザーに刺さらなかった」と決算説明会で総括しました。

スクエニ以外でも、コナミの『PROJECT ZIRCONIUM』(2024年構想)はトーンダウン、バンダイナムコの『RYUTAMA Stones』(2023年)も話題になることなく沈静化、セガはサードパーティへの IP ライセンス供与に方針転換――日本の大手ゲーム会社は軒並み Web3 から距離を置く方向に動いています。

出典: Square Enix: 資産性ミリオンアーサー サービス終了 (2024) / スクウェア・エニックス 中期経営計画 2024-2027

日本企業の追従失敗4: 国産BCGの連鎖サービス終了

日本国内のブロックチェーンゲーム(BCG)スタートアップの状況も、海外と同様、もしくはそれ以上に厳しいものでした。2024〜2025年にかけて、「サービス開始から1〜2年で終了」というケースが続発しています。

タイトル 運営 サービス開始 終了/縮小
エレストワールド double jump.tokyo 2023年4月 2024年4月終了(1年)
De:Lithe Last Memories EnterMate / DEA 2023年12月 2025年6月終了(1年半)
TOKYO BEAST Gumi/Beast Inc. 2024年3月 2025年8月終了(1年半)
キャプテン翼-RIVALS- Mint Town/BLOCKSMITH 2023年11月 2025年11月終了(2年)
クリプトスペルズ CryptoGames 2019年6月 2025年運営大幅縮小

とくに TOKYO BEAST は、Gumi(ファイナルファンタジー・ブレイブエクスヴィアスを開発した上場企業)が大々的にプロモーションし、トークンセールでも数十億円規模を集めた大型タイトル。にもかかわらず、わずか1年半でサービス終了の発表に至りました。NFT 保有者は数万円〜数百万円規模で参加した投資をほぼ全損するケースが多く、SNS では「日本最大の Web3 詐欺」と批判する声も上がっています。

サービス終了タイトルに共通するパターンは以下です。

  • 初期トークン高騰→新規ユーザー減で価格急落 — Axie Infinity と同じポンジ的構造
  • NFT 高額販売(数万〜数百万円) — 早期参加者が多額を投資
  • 運営はトークンセールで先に資金回収 — その後の継続インセンティブが弱い
  • 1〜2年でサービス終了 → NFT 価値消滅 — 投資した数万人〜数十万人が損失を抱える

日本のブロックチェーン専業スタートアップ double jump.tokyo は2024年に大型出資を停止し、同社の主力タイトル「My Crypto Heroes」も縮小運営に。日本ブロックチェーンゲーム業界全体の市場規模は、2022年のピーク時から1/10以下に縮小したと、業界誌『コインデスクジャパン』も2025年に報じています。

出典: コインデスクジャパン: 国産BCG連鎖終了 (2025)

NFT は本当にデジタル所有権だったのか

ここまで失敗事例を見てきましたが、最も重要な論点は「NFT は本当にデジタル所有権だったのか?」という根本的な問いです。NFT バブルでは「NFT は唯一性のあるデジタル資産で、ブロックチェーンに永続的に記録される」「サービスが終わっても NFT は残る」と説明されてきました。

しかし、技術的に正確には、NFT は「ブロックチェーン上のトークンID と所有者ウォレットアドレスのペアの記録」に過ぎません。NFT に紐づく画像・3Dモデル・ゲーム内アイテムの実体は、多くの場合ブロックチェーン外にあります。具体的には次の3パターンがあります。

タイプ 画像/データの保管場所 サービス終了時の挙動
中央集権サーバー保管型 運営会社の AWS S3 等 サーバー停止=画像消失
IPFS 保管型 分散ストレージ IPFS ピンナーが消えると消失
オンチェーン型 ブロックチェーン上に画像を保存 チェーン稼働中は永続

世間に流通する NFT のほとんどは「中央集権サーバー保管型」または「IPFS 保管型」です。とくに高解像度の画像・3D モデル・ゲーム内アイテムなどはオンチェーンに保存するとガス代が膨大になるため、実際にはほぼ全ての NFT で画像本体はサーバー側保管されています。

そしてこれが最大の落とし穴でした。サービス運営会社が事業終了すると、サーバー停止 → 画像が読めない → メタデータ(属性情報)も読めない → NFT が表示されない、という連鎖が起きます。

同様に、IPFS(分散ストレージ)に保管されていた場合も、運営会社や有志が「ピン(保持)」を継続しなければ、ストレージノードから消滅します。「分散しているから永遠に残る」というのは技術的には誤解で、誰かがデータをホストし続けるインセンティブがないと、IPFS でも消えます。

出典: Verge: NFT Image Hosting Risks (2022)

「ただのデータ以下」――サービス終了でNFTが消える仕組み

ここまでの議論を踏まえると、サービス終了後の NFT は「ただのデータ以下」と表現するのが適切な状況に陥ります。「データ」と言っても、画像が再生できない、メタデータが取れない、ウォレットの中で「JSONエラー」「画像なし」として表示されるだけ――そんな状態の事例が無数にあります。

象徴的な事例をいくつか紹介します。

事例1: Raccoon Secret Society(2022年崩壊)

2022年初頭に話題になった NFT コレクション「Raccoon Secret Society」は、開発者が突如プロジェクトを放棄。NFT 画像のホストサーバーを停止し、所有者のウォレットには「画像が読み込めない」状態の NFT のみが残りました。OpenSea 上での表示は「Image Not Available」のグレー画像に。NFT トークン ID は依然としてブロックチェーン上に存在するものの、それが「何の絵だったのか」を表示する手段が失われました。

事例2: Niftygateway(特定 NFT のサービス終了)

大手NFT マーケットプレイス Niftygateway 上で販売された一部の NFT で、関連する画像 URL が無効になる事象が発生。所有者は「自分が買った絵を見ることすらできない」と SNS で報告。Niftygateway 自体は運営継続しているものの、特定アーティストや特定プロジェクトのデータホスティングが途絶えるケースが頻発しています。

事例3: 国産 BCG のゲーム内 NFT

サービス終了したエレストワールド、TOKYO BEAST 等の国産 BCG では、ゲーム内 NFT は技術的には保有者のウォレットに「残って」います。しかし、もとのゲームクライアントが起動できないため、その NFT で本来できた「ゲーム内バトル」「育成」などの機能は完全に消失。ウォレットには文字どおり「動かないアイテム」が残るだけです。「貴方は所有しているが、何にも使えない」状態が「ただのデータ以下」と呼ばれる所以です。

事例4: メタバース内の NFT 土地

The Sandbox や Decentraland 内の LAND NFT も、メタバースサービスがアクセス不能になれば、「土地」としては機能しません。所有者ウォレットには「LAND #1234」というトークンが残るだけで、その土地の上に建てた建物・看板・コンテンツは全てサーバー側にあるため、サービス終了とともに「土地」の意味自体が消失します。

結論として、NFT の「永続性」は、関連サービスやデータホストが稼働していることを前提にしか成立しません。「ブロックチェーンに記録されているから永遠だ」という説明は、実体としては「JPEG ファイルが消えれば JPEG への参照だけが残る」という、極めて貧弱な「所有権」だったのです。

所有者が手にしているのは、結局のところ「リンク切れの URL」を所有する権利。これは、一般的なデジタルデータ(PC に保存した画像、Google Drive に置いた写真)よりもむしろ脆いと言えます。なぜなら、多くのデジタルデータは複製と再ホストでアクセス可能ですが、NFT は「特定の URL(あるいは IPFS ハッシュ)」に紐づく1つのトークンであり、その先のデータが消えると自分でリストアする手段がないからです。

出典: Wired: NFTs and the Storage Problem (2023)

Web3バブルが残した教訓――なぜ大半は失敗したのか

ここまで20以上の失敗事例を見てきました。最後に、なぜ Web3 がここまで大規模な失敗を生んだのか、その共通項を経営者目線で整理しておきます。

1. ユースケースより資金調達が先行

STEPN、Axie、OpenSea、BAYC、LINE NFT――いずれも、解決すべき具体的な課題よりもまず「Web3 だから」「NFT だから」という理由で投資資金が集まり、評価額が膨らみました。ユーザーの本当の困りごとを起点としていない事業は、ブームが去った瞬間に使い続ける理由を失います。

2. ポンジ的経済構造の依存

Play to Earn、Move to Earn、ステーキング報酬、Yield Farming――Web3 を支えた多くの収益モデルは、新規参入者が増え続けることを前提とした「実質ポンジ」でした。新規流入が止まると、先行参加者の収益も急減し、トークン価格と DAU が同時崩壊する構造でした。これを純粋なビジネスモデルとして見れば、サステナブルではないことは事業設計の段階で気づくべきものでした。

3. 中央集権を否定しながら、中央集権インフラに依存

「分散・非中央集権」を掲げながら、実際には FTX や Coinbase のような中央集権的取引所に依存。NFT も中央サーバーや IPFS のピンナーに依存。本当の意味で分散していたサービスはほぼ皆無で、結局は「Web2 のサービスを暗号資産で味付けした」だけのものが多数を占めました。

4. 規制リスクの軽視

SEC(米証券取引委員会)が2023年以降、Coinbase、Kraken、Binance、Yuga Labs などに次々と訴訟・調査を開始、暗号資産関連事業の未登録証券販売が追及されました。日本でも金融庁の規制対応コストが想定を超え、収益化を阻害。「規制が追いついてくる前提」で設計された事業の多くは、規制と並走できる体力を持ちませんでした。

5. ボラティリティが本業を侵食

Web3 事業を組み込んだ大企業(Nike、楽天、LINE、スクエニなど)にとって、暗号資産価格の急落はバランスシートを直撃します。さらに「Web3 で炎上」というレピュテーションリスクも伴い、本業のブランド価値を損なうケースもありました。Nike が RTFKT を3年で畳んだのは、こうしたリスクと収益のバランスが合わなかった経営判断と読み取れます。

6. 「次の10年を変える」というナラティブの危うさ

2021年当時、AI、メタバース、Web3、NFT、量子コンピュータ――テック業界には「次のメガトレンド」の候補が複数並び、結果として AI が圧倒的に勝ちました。VC やメディアが煽るストーリーを鵜呑みにせず、自社のドメインで本当に役立つ技術かを冷静に見極める力が、経営者には求められます。

Web3 の技術自体(ブロックチェーン、暗号、ゼロ知識証明など)は、特定領域では今後も社会基盤として活用されていくでしょう。実際、ステーブルコインや決済領域では2025年時点で年間数兆ドル規模の決済が動いています。重要なのは「全領域に Web3 を被せる」のではなく、特定の課題に対して暗号技術が本当に最適解かを、冷静に問う姿勢です。

そして、本記事で見たように、ブームに乗って「NFT を発行すれば話題になる」「メタバースに出店すれば顧客が来る」と信じて投資した企業の99%は、3〜4年後に巨額の損失と撤退という結末を迎えました。次に「次のメガトレンド」と呼ばれるバズワードが現れたとき、本記事の事例は強力な反証材料になるはずです。

煽動者たちのリターン――a16zはDPI 5.4倍で売り抜けた

ここまで「Web3 に乗って失敗した側」の記録を追ってきました。しかし、最も重要な問いがまだ残っています――「ブームを焚き付けた張本人たちは、いったいどうなったのか?」。結論から言うと、彼らは「アホ」ではなく「構造的勝者」でした。

a16z Crypto Fund I の数字が語る真実

Web3 ブームの最大の旗振り役として、シリコンバレーの名門 VC a16z(Andreessen Horowitz)の名前は外せません。a16z crypto は2018年に最初のクリプト専用ファンド(Crypto Fund I、3.5億ドル)を組成し、2021年に22億ドル規模の Fund III、2022年5月に史上最大の45億ドル規模の Fund IVを立ち上げました。

メディアが報じる「表の物語」は、2022年上半期の暗号資産暴落で a16z crypto の運用資産が40%以上下落したというものでした。しかし「裏の物語」は正反対です。Fortune が入手した SEC 開示資料によれば、a16z crypto は2025年の市場ピークを狙って LP(出資者)への分配を実施。Newcomer のデータでは、2018年組成の Crypto Fund I の純 DPI(投下資本に対する分配倍率)は5.4倍に到達しています。

DPI 5.4倍。投下した1ドルが5.4ドルになって返ってきている計算です。NFT コレクションの95%が無価値になり、STEPN のトークンが99%下落し、OpenSea の取引高が95%蒸発する中で、この数字が出ること自体が、a16z が「構造的に勝つ側」にいたことを示しています。

タイミングが全てを物語る

ファンド組成と市場サイクルの時系列を並べると、偶然では片付けられない構図が浮かびます。

時期 a16z の動き 市場の状況
2018年 Crypto Fund I(3.5億ドル)組成 クリプト氷河期、安値仕込み
2021年 Crypto Fund III(22億ドル)組成、State of Crypto レポート初公開 NFT / Web3 バブルピーク
2022年5月 Crypto Fund IV(45億ドル、史上最大)組成 Beeple 天井圏・LUNA 崩壊の月
2025年 LP へ分配(DPI 5.4倍)、AUM 40%縮小 新規 LP には大ダメージ

注目すべきは、「過去最大の45億ドルファンド」が組成された2022年5月は、まさに Terra/LUNA 崩壊の月だという事実です。Beeple が75億円で落札され、BAYC が6,000万円をつけた直後、誰がどう見ても天井圏のシグナルが点滅しているタイミングで、過去最大規模のファンド募集を行いました。

整理すると、2018年の初期ポジションは安値で仕込み済み、2022年の45億ドルファンドは天井で新規 LP(買い手)を集める「儀式」、2025年の分配は早期ファンドを高値で売り抜けた結果です。「自社の初期ポジションをエグジットさせるための買い手集めとマーケットメイク」と解釈するのが、パフォーマンスの数字を最も整合的に説明できます。

ナラティブの「生産者」としての a16z

a16z の行動は単なる「投資の広報活動」の範疇を超え、ナラティブ全体の生産者として機能していました。

  • State of Crypto レポート:2022年5月、価格暴落中にもかかわらず初公開。「Web3 は2031年までに10億ユーザーに到達する可能性」「現状は商用インターネットの1995年段階」と位置づけ、暴落中に「いやこれからだ」というプロパガンダを展開
  • Chris Dixon の著書『Read Write Own』:2024年、Web3 の正当性を体系化する書籍をマス向けに出版。バブル崩壊後もナラティブの延命を図った
  • 政策ロビイング:下院金融サービス委員会出身の Collin McCune を政府関連トップとして雇用。規制環境を自社に有利に整える組織的活動

「Web3」を捨て、看板を架け替え中

a16z は今も暗号資産領域に張り続けていますが、もう「Web3」という単語をほぼ使わなくなっています。State of Crypto 2025 の主軸はステーブルコイン・予測市場(Polymarket / Kalshi)・トークン化 RWA・perp DEXに完全シフト。NFT / メタバース / Play to Earn は扱いが激減しました。Stripe のステーブルコイン・インフラ企業 Bridge 買収や、Circle のIPO を「勝利宣言」として掲げる一方、2021年の喧伝内容とは完全に別物です。

つまり a16z は「焼け野原から新しいバズワードに移植中」であり、焼け跡を歩いているのは、ナラティブを信じて参入した一般投資家や事業会社だけです。

非対称性こそが Web3 バブルの本質

「a16z はアホだったのか?」――答えは明確に No です。「焚き付けて、初期ポジションは売り抜けた。ただし最後の45億ドルだけは自分も焼かれた張本人」というのが最も正確な表現でしょう。

一般 NFT ホルダーが95%の損失を抱えた裏で、a16z Crypto Fund I の2018年からの LP は DPI 5.4倍で逃げ切った。この非対称性こそが、Web3 バブルの本当の構造です。ブームに乗った事業会社の99%が撤退した一方、煽動者は儲けて看板を架け替えた。次のバズワードが現れたとき、「誰がナラティブを生産しているのか」「その人物のエグジット戦略は何か」を問うことが、経営者として最も重要な防衛線になるはずです。

出典: Fortune: a16z crypto returns and SEC filings (2025) / Newcomer: a16z Crypto Fund I DPI data / a16z: State of Crypto 2025 Report

まとめ

  • STEPN は1年でトークン99%下落・MAU98%減。Move to Earn は実質ポンジ構造だった
  • Axie Infinity は北朝鮮ハッカーに625億円を盗まれる。Play to Earn ブームは1年で終焉
  • OpenSea は月間取引高 -95%、社員50%解雇。NFTマーケットの王座は瓦解
  • BAYC(サルのNFT)は -90%以上下落、Yuga Labs は社員25%解雇
  • The Sandbox / Decentraland のDAUはわずか522人/38人。10億ドル評価のメタバースの中身は無人
  • Nike RTFKT は3年で撤退。グローバルブランドの本気投資ですら成功しなかった
  • 世界の NFT コレクション95%が無価値(dappGambl 2023)
  • FTX 破綻は史上最大級の金融詐欺。SBFは禁錮25年、顧客資産1.4兆円流用
  • LINE NFT/DOSI は2025年完全終了。Finschia チェーンも停止し、NFT は「動作環境を喪失」
  • 楽天NFT、スクエニ資産性ミリオンアーサーも軒並み店じまい
  • 国産BCG は次々サービス終了。TOKYO BEAST、エレストワールド、キャプテン翼-RIVALS- など
  • NFT は「ブロックチェーン上のトークンID」で、画像本体はサーバー保管。サービス終了で表示不能に
  • ✓ サービス終了後の NFT は「ただのデータ以下」。所有しているのは「リンク切れのURLを参照する権利」
  • a16z Crypto Fund I は DPI 5.4倍で LP に分配。煽動者は「構造的勝者」として売り抜け、看板を架け替えた
  • 「ブームに乗って参入した企業の99%が3〜4年で撤退」。次のバズワードでも同じ構造に注意

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

X-HACK Inc. 代表取締役。システムコンサルタントとして中小企業の基幹システム構築・業務設計に携わったのち、自ら起業。小規模ビジネスの立ち上げから黒字化までを複数回経験し、採用・資金調達・補助金申請の実務にも精通。「補助金さがすAI」の開発・運営を通じて、経営者が本当に必要とする情報を現場目線で発信しています。

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