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NTTのWeb3事業が“ほぼ全滅”――6,000億円投資計画はなぜ失敗したのか

NTTのWeb3事業が“ほぼ全滅”――6,000億円投資計画はなぜ失敗したのか - ニュース - 補助金さがすAI

忙しい人向けの30秒まとめ

  • FTX破綻と同月に「最大6,000億円」を宣言したが、3年余りで中核サービス終了・子会社NTT Digital消滅。暗号資産取引所・NFTマーケット・ウォレットいずれも未実現か撤退。
  • NFT取引量はピーク比93%減、The SandboxのDAU約100人。ブロックチェーンが解決するとされた課題はWise(送金0.5〜1%)や共有DBで代替可能なものばかりだった。
  • 教訓は「新しい技術かどうかより誰のどんな課題を解決するかで投資判断する」「外部コンサルの楽観シナリオを自社で検証する」「バブルのピーク後に追随投資しない」。

2022年11月、NTTドコモは「Web3の社会実装」を掲げ、最大6,000億円を5〜6年で投じると発表しました。暗号資産取引所、NFTマーケットプレイス、デジタルウォレット――壮大な構想でした。しかし2026年4月現在、中核サービス「scramberry WALLET」は終了、子会社NTT Digitalは消滅、投資額の大半が回収不能とされています。コンサルティング大手アクセンチュアとの提携のもと進めた巨額投資は、なぜ失敗したのか。中小企業経営者が「流行技術への投資判断」から学ぶべき教訓を解説します。

NTTドコモ「6,000億円Web3投資」の全容

2022年11月8日、NTTドコモの井伊基之社長(当時)は記者会見で「Web3事業に最大5〜6,000億円を投資する」と宣言しました。日本経済新聞、ケータイWatchなど主要メディアが一斉に報じ、「国内通信大手がWeb3に本気を出した」と大きな話題になりました。

井伊社長は「儲からないとクビになる」とまで発言し、本気度を強調。構想には暗号資産取引所の開設、トークン発行プラットフォーム、デジタルウォレット、セキュリティサービスなどが含まれ、NTTグループを「Web3イネーブラー(実現者)」として位置づける戦略でした。

時期 出来事
2022年11月 NTTドコモ、Web3に最大6,000億円投資を発表。アクセンチュアとの提携合意
2022年12月 子会社「NTT Digital」設立
2023年3月 「scramberry WALLET」サービス開始
2023年7月 Web3スタートアップ13社との連携発表
2024年7月 「NTTドコモ・グローバル」設立(グローバル展開用)
2025年7月 scramberry WALLETサービス終了を発表
2025年9月 scramberry WALLET(個人向け)サービス終了
2026年1月7日 NTTドコモ・グローバル × アクセンチュア、新基盤「Universal Wallet Infrastructure(UWI)」協業を発表
2026年1月26日 法人向けscramberry WALLET SUITE サービス終了
2026年2月1日 NTT DigitalがNTTドコモ・グローバルに吸収合併、法人格として消滅

わずか3年余りで、発表時の構想のほとんどが実現しないまま終了しました。SNS上では「投資の逆神」「全滅」といった厳しい声が飛び交っています。

アクセンチュアの役割――何を指導し、何が間違っていたのか

NTTドコモは2022年11月、Web3事業の推進パートナーとしてアクセンチュアとの提携を正式発表しました。アクセンチュアが担った役割は多岐にわたります。

  • Web3戦略の策定――事業領域の選定、ロードマップの作成
  • オペレーション基盤の構築――運用体制の設計
  • グローバル展開計画――欧州・北米への拡大シナリオ
  • ESG/SDGsとの連携――Web3技術の社会課題への応用
  • Web3人材の育成――NTTグループ内のスキル開発

問題は、アクセンチュアが提案した戦略の前提そのものにありました。2022年11月はFTX破綻の直後であり、暗号資産市場は未曾有の崩壊局面に入っていました。にもかかわらず、「Web3市場は中長期で回復・拡大する」という楽観シナリオに基づいて巨額投資を推進。市場環境の急変に対する撤退基準や損切りラインが設定されていなかったとみられます。

コンサル依存の落とし穴:外部コンサルタントの提案はあくまで「助言」であり、最終的な投資判断と結果責任は経営者にあります。特に新興技術への投資では、コンサルタントの楽観的な市場予測を鵜呑みにせず、自社でも市場を検証する姿勢が不可欠です。

2026年1月7日、アクセンチュアとNTTドコモ・グローバルは新基盤「Universal Wallet Infrastructure(UWI)」のグローバル展開で協業を発表。提携関係自体は継続しているものの、ターゲットは個人向け暗号資産ウォレットから行政・人事・旅行などのB2B / B2G信頼基盤へと大きく路線転換されています。詳細は 「NTT × アクセンチュア、Web3『再起動』――次世代基盤『UWI』とB2Bへの大転換」 をご覧ください。

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scramberry WALLETの栄枯盛衰

NTT Digitalのフラッグシップサービスだったのがデジタルウォレット「scramberry WALLET」です。2023年3月にサービスを開始し、電話番号だけで登録できる手軽さを売りに、暗号資産やNFTの管理・送受信ができるアプリとして展開しました。

しかし、ユーザー数は伸び悩みます。暗号資産市場全体の冷え込みに加え、「NTTのウォレットを使う明確な理由」を消費者に提示できなかったことが大きな要因です。既にMetaMaskやCoinbase Walletなど先行サービスが存在するなか、後発のNTTが差別化できる要素は限定的でした。

NTT Digitalは「将来にわたり収益性を確保することが極めて困難」と判断し、2025年7月にサービス終了を発表。同年9月に個人向け、2026年1月に法人向けのサービスをすべて終了しました。CoinDesk JAPANの取材に対し、「NTTグループとしてWeb3から撤退するわけではない」と説明しましたが、具体的な次のサービスは示されていません。

NTT Digitalの消滅――子会社設立からわずか3年

2022年12月に鳴り物入りで設立されたNTT Digitalは、2026年2月1日をもってNTTドコモ・グローバルに吸収合併され、法人として消滅しました。設立からわずか約3年での幕引きです。

NTTドコモ・グローバルへの合併は「Web3事業のさらなる発展のため」と説明されていますが、実態としてはスタンドアロンの事業会社として維持する意義がなくなったと見るのが自然です。Staking(暗号資産の預入れ運用)など一部のサービスは継続しているものの、当初構想した事業の大部分は実現しないまま終わりました。

当初の構想 結果
暗号資産取引所の開設 未実現
デジタルウォレット(scramberry WALLET) サービス終了
NFTマーケットプレイス 未実現
トークン発行プラットフォーム 未実現
グローバル展開(欧米) 大幅縮小
Staking サービス 継続中(唯一)
投資額の大半が回収不能:報道やSNS上の分析によれば、6,000億円の投資計画のうち実際に投じた額の大部分が回収困難な状況とされています。NTTは損失の具体的な金額を公表していません。

そもそもWeb3は何の問題を解決するのか?

NTTの失敗を語る前に、より根本的な問いがあります。Web3は、いったい誰のどんな問題を解決するために生まれた技術なのか――この問いに明確に答えられる人は、推進者のなかにもほとんどいませんでした。

2026年の今、振り返ってみれば答えは明白です。Web3は何一つ解決していません

「いや、ステーブルコイン送金は途上国の送金コストを下げた」「BlackRockやJPMorganが金融資産のトークン化を本番運用している」「サプライチェーンの追跡に使われている」――Web3推進派はこうした事例を「成功」として挙げます。しかし冷静に見れば、これらはすべて既存技術で解決済み、またはブロックチェーンなしで解決可能な問題です。

Web3の「成功事例」 既存技術での解決策
ステーブルコイン送金(手数料6.5%→1〜3%) Wise(旧TransferWise)が従来の銀行レールで既に0.5〜1.5%を実現。M-Pesaはブロックチェーンなしで途上国の金融包摂を達成済み
金融資産トークン化(BlackRock、JPMorgan) 証券保管振替機構(DTCC)が既に担っている機能。JPMorgan Onyxはプライベートチェーン=実質ただの共有データベース
サプライチェーン追跡(Walmart等) 効果の本質は「サプライヤーに記録のデジタル化を義務付けた」こと。共有データベースで同じことが可能

技術が「すごい」と言えるのは、既存技術では解決できない問題を解決したときです。既に解決策が存在する領域に、膨大な電力を消費し、処理速度が遅く(Visa: 数千TPS vs Bitcoin: 7TPS)、セキュリティ侵害で2025年上半期だけで31億ドルが盗まれる「分散型データベース」を持ち出すのは、解決ではなく劣化です。

そしてWeb3の本命とされた領域は壊滅しました。NFTプロジェクトの98%が実質的に死亡(取引量は2021年ピークから93%減)。Web3ゲームはポンジ的なトークンエコノミクスの崩壊が相次ぎ、メタバースのThe Sandboxは評価額10億ドル超に対しDAU(日次アクティブユーザー)がわずか約100人。エアドロップのリテンション率は30日後に1%未満。ブロックチェーンでなければ解決できなかった問題は、結局ひとつも見つからなかったのです。

「非中央集権」という幻想

Web3の中核にある思想は「非中央集権(Decentralization)」です。銀行や政府といった中央の管理者を排除し、ブロックチェーン上でユーザー同士が直接やり取りする――。一見すると革新的に聞こえますが、現実の社会で「中央集権」が本当に問題なのかを冷静に考える必要があります。

たとえば不動産登記。私たちが安心して土地や建物を売買できるのは、国家権力が法務局を通じて登記情報を管理し、その正当性を保証しているからです。もし登記がブロックチェーン上の「誰でも書き込める台帳」に置き換わったら、紛争が起きたときに誰が裁定するのか。答えは結局「国家」に戻ってきます。信頼の源泉が中央集権にあるとき、それを分散化する意味はありません

銀行預金も同様です。銀行が破綻しても預金保険制度(ペイオフ)で1,000万円まで保護される。これは国家の信用と法制度があるからこそ成立する仕組みです。一方、暗号資産取引所が破綻した場合はどうか。FTXの破綻で数十億ドルの顧客資産が消えたことが、その答えです。Ethereumの創設者Vitalik Buterin自身でさえ、多くのWeb3プロジェクトが「隠しバックドア」や「即時アップグレードボタン」に依存していると警告しています。

「非中央集権」は幻想だった:元Twitter CEOのJack Dorsey氏は「Web3はVCとそのLPが所有している。彼らのインセンティブから逃れることはない。結局は違うラベルのついた中央集権的存在だ」と指摘。NTTドコモのscramberry WALLETも、NTTが運営する中央集権的なサービスでした。「非中央集権」を掲げながら中央集権的なサービスを提供する矛盾が、ユーザーにも見透かされていたのです。

儲かっているのは「胴元」だけ

では、Web3の世界で実際に儲かっているのは誰か。答えは明快で、暗号資産取引所だけです。Coinbase、Binance、bitFlyerといった取引所は、ユーザーが売買するたびに手数料を徴収する「胴元」のビジネスモデルで安定的に収益を上げています。つまりWeb3で成立しているビジネスは、非中央集権の理想とは正反対の、中央集権的な仲介手数料ビジネスだけなのです。

NTTも当初は暗号資産取引所の開設を構想に含めていましたが、金融ライセンスの取得や規制対応のハードルから実現しませんでした。皮肉にも、Web3領域で唯一成立するビジネスモデルに参入できず、「解決すべき課題が存在しない」ウォレットやNFTの領域に資金を投じた格好です。

経営者にとって重要な教訓は、「技術の新しさ」と「顧客の課題解決」は別物だということです。ソフトウェアエンジニアのMolly White氏は「ブロックチェーンは問題を探している解決策(solution looking for a problem)だ」と喝破しました。既存の銀行送金、電子マネー、クレジットカード決済で十分な場面に、わざわざ暗号資産やトークンを使う理由がなかった。AIの採用率が84%に達した一方でWeb3は10%未満にとどまっているという数字が、市場の評決を如実に物語っています。解決すべき課題が存在しないところに技術を持ち込んでも、事業は成り立たないのです。

なぜ失敗したのか:5つの構造的要因

Web3そのものの根本的な問題に加え、NTTの事業推進には固有の構造的な失敗要因がありました。

1. 最悪のタイミングでの参入

6,000億円の投資発表は2022年11月。同月にFTXが破綻し、暗号資産市場は歴史的な暴落局面に突入しました。バブルのピーク直後に巨額投資を決定するという、タイミングの悪さが致命的でした。

2. 外部コンサルへの過度な依存

アクセンチュアの提案に基づいて事業戦略を策定しましたが、NTT社内にWeb3技術やクリプト市場を深く理解する人材が不足していたため、提案内容を自社で検証・修正する力が弱かったとみられます。コンサルティング会社は「やるべき理由」を提示するのは得意ですが、「やめるべきタイミング」を提言するインセンティブは薄い構造的問題があります。

3. 大企業の意思決定スピードの遅さ

Web3のような急速に変化する領域では、市場変化に即応できるスピードが必要です。NTTグループの巨大な組織構造のなかで、子会社設立・サービス開発・提携交渉を進めるうちに、市場環境は大きく変わっていました。

4. 「NTTだから使う理由」の欠如

通信キャリアがウォレットサービスを提供する明確な優位性を示せませんでした。電話番号で登録できる手軽さだけでは、既存サービスから乗り換える動機にはなりません。Web3ユーザーは分散型を志向する層が多く、大企業の中央集権的なサービスとの相性も悪い面がありました。

5. 撤退基準の不在

巨額投資を発表した以上、簡単には撤退できない「コミットメントの罠」に陥りました。市場が冷え込んでも「中長期で見れば成長する」と判断を先送りし、損失が拡大。事前に明確な撤退基準(KPI未達時のエグジットプラン)を設けていれば、傷は浅く済んだはずです。

中小企業が学ぶべき「流行技術への投資」の教訓

NTTの失敗は、中小企業にとって「他人事」ではありません。規模は違えど、流行技術に飛びついて損失を出す構造は同じだからです。

NTTの失敗 中小企業に置き換えると
バブル期に巨額投資を決定 「今やらないと遅れる」と焦って高額ツールを導入
コンサルの提案を鵜呑みに ITベンダーの営業トークだけで導入を決定
自社の強みと無関係な領域に参入 本業との接点がないサービスに投資
撤退基準を設けなかった 「もう少し続ければ成果が出るはず」と損切りできない
AI投資にも同じリスクがある:現在のAIブームも、Web3ブームと同じ構造を持っています。「AIを導入しないと取り残される」という焦りから無計画に投資するのではなく、自社の業務課題を起点に、投資対効果を検証しながら段階的に導入する姿勢が重要です。

新技術への投資で失敗しないための3つの原則は、(1)小さく始めて検証する(2)撤退基準を事前に決める(3)自社の強みと接続するです。補助金を活用すれば、自己負担を抑えながら検証できます。

制度名 対象 活用のポイント
デジタル化・AI導入補助金(2026年度) AI・デジタルツールの導入費用 まず小規模な業務から試す費用を補助
IT導入補助金 ITツール・システムの導入 既存業務のデジタル化に活用
ものづくり補助金 革新的な製品・サービスの開発 新技術の実証実験に活用

参考資料

経営者が今日から意識すべきアクション

  • 「流行だから」で投資判断しない――新技術に投資する前に「自社の顧客にとって本当に価値があるか」を検証する。NTTはWeb3ユーザーのニーズを掴めないまま巨額を投じた
  • 撤退基準を先に決める――「3ヶ月でKPI未達なら中止」「投資額が○○万円を超えたら再評価」など、やめる条件を投資開始前に明文化する
  • 外部の助言を鵜呑みにしない――コンサルやベンダーの提案は参考にしつつ、自社でも市場調査や小規模テストで検証してから本格投資する
  • 小さく始めて学ぶ――補助金を活用し、リスクを抑えながらPoC(概念実証)を行う。いきなり全社導入ではなく、1部門・1業務から始める
  • 本業の強みと接続する――自社が持つ顧客基盤・ノウハウ・業界知識と結びつかない技術投資は、差別化が難しく失敗確率が高い

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

X-HACK Inc. 代表取締役。システムコンサルタントとして中小企業の基幹システム構築・業務設計に携わったのち、自ら起業。小規模ビジネスの立ち上げから黒字化までを複数回経験し、採用・資金調達・補助金申請の実務にも精通。「補助金さがすAI」の開発・運営を通じて、経営者が本当に必要とする情報を現場目線で発信しています。

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