事前着手申請・着手前着手と補助金|工事着工前・事前購入で使える支援制度ガイド
補助金には原則として「交付決定通知が届く前に事業を開始してはならない」というルールがあります。しかし一部の補助金では、採択前または交付決定前に事業に着手することを認める「事前着手申請」制度が設けられていました。本記事では事前着手制度の仕組み・適用対象・申請フロー・注意点・最新の制度動向を整理します。
事前着手(着手前着手)とは
補助金における「事前着手」とは、補助金の交付決定通知が出る前に補助対象事業を開始することを指します。通常、補助金は交付決定後に事業を開始することが絶対条件であり、これを「事前着手の禁止」と呼びます。
2020年4月以降、新型コロナウイルスの影響で多くの事業者が売上減少等の困窮状態に陥ったことを受け、事業再構築補助金を中心に「交付決定前に事業に着手していても補助対象経費として計上できる」という特例制度が整備されました。これが「事前着手申請」制度です。
申請締切日から交付決定日までの期間(約4カ月)に補助対象経費の購入・契約を行いたい事業者が、この制度を活用することで、交付決定前の費用を補助対象として計上できます。
「着手」の定義
事業再構築補助金における「着手時点」は、計画段階・見積書取得の段階ではなく、最初の「発注」または「契約」を行った時点です。例えば「A工事」と「B機器・C機器の購入」を含む計画の場合、最初に実施するA工事の契約を締結した時点が着手時点となります。事前着手制度が適用される補助金・適用されない補助金
事前着手制度はすべての補助金に設けられているわけではありません。下表に主要補助金の対応状況をまとめます。
| 補助金名 | 事前着手制度 | 備考 |
|---|---|---|
| 事業再構築補助金 | △(限定的な経過措置のみ) | 第12回より原則廃止。第13回公募で補助金自体が終了予定 |
| ものづくり補助金 | ✕(不可) | 交付決定前の設備・機械購入は対象外 |
| IT導入補助金 | ✕(不可) | 中小企業庁所管の他の補助金と同様に制度なし |
| 小規模事業者持続化補助金 | ✕(不可) | 交付決定後の着手が必須 |
| 中小企業省力化投資補助金 | ✕(不可) | 採択決定後に購入。支払は振込のみ対象 |
| 事業承継・M&A補助金 | ✕(原則廃止) | 14次公募より原則廃止(激甚災害等の例外を除く) |
| 新事業進出補助金 | ✕(不可) | 交付決定前の事業開始は原則として補助対象外 |
事前着手制度は実質的に終了しています
事前着手制度が実装されていた事業再構築補助金は第13回公募で終了予定です。また第12回公募以降は原則廃止となっており、現在活用できる主要補助金に事前着手制度はありません。今後の補助金申請は交付決定後に着手することを前提にスケジュールを組む必要があります。事業再構築補助金における事前着手制度の詳細
事前着手制度の中心的な制度として機能してきた事業再構築補助金について、制度の詳細を整理します。
第12回公募での適用条件(経過措置)
第12回公募より事前着手制度は原則廃止となりましたが、以下の2つの経過措置に該当する事業者のみ申請が認められました。
- 第10回・第11回公募で「物価高騰対策・回復再生応援枠」または「最低賃金枠」の交付候補者として不採択となった事業者が、第12回公募でコロナ回復加速化枠(通常類型)または(最低賃金類型)に申請する場合
- 第10回公募で「サプライチェーン強靱化枠」の交付候補者として不採択となった事業者が、第12回公募で同枠に申請する場合
対象者
事業再構築補助金の対象者は中小企業・中堅企業・個人事業主です。各申請枠に固有の必須要件があるため、自社が申請できる枠を公募要領で確認する必要があります。
採択率の推移
| 公募回 | 申請件数 | 採択件数 | 採択率 |
|---|---|---|---|
| 第10回 | — | — | 48.1% |
| 第11回 | 9,207件 | 2,437件 | 26.4% |
| 第13回(最終) | 3,100者 | 1,101者 | 約35.5% |
第11回から採択率が大幅に低下した背景には、事業再構築補助金の効果や審査に対して厳しい指摘が相次ぎ、審査基準の大幅な見直しが行われたことがあります。
事前着手申請の手続きフロー
事業再構築補助金における事前着手申請の手続きを以下に整理します。
-
GビズIDプライムアカウントの取得
電子申請システム「jGrants」を利用するために事前取得が必須です。取得まで通常2〜3週間かかります。 -
事業計画書・申請書類の作成
認定経営革新等支援機関と協力して作成することで、審査基準への適合度を高めることができます。 -
事前着手申請の提出(採択後〜交付決定前が推奨)
採択前に申請すると申請内容に変更が生じた際に再提出が必要になるため、採択後・交付決定前のタイミングが効率的です。第12回公募では令和6年4月23日から交付決定日までが受付期間でした。 -
事前着手申請の審査・結果通知
申請から結果通知まで通常10日〜2週間程度が目安ですが、内容・申請状況によってはさらに時間を要する場合があります。 -
事前着手承認後に事業開始(発注・契約)
承認を受けた後に対象経費の発注・契約を行います。 -
交付決定後に通常の補助事業を継続
交付決定通知後、残りの補助事業を実施します。
事前着手申請が承認されても採択は保証されない
事前着手届出が受理された場合でも、採択審査の結果として不採択となった場合は補助金の交付を受けることができません。採択されなかった場合、事前着手申請の効力もなくなります。事前着手を行う際は採択されない場合のリスクを十分に考慮する必要があります。申請時の主な注意点
事前着手申請を行う際に特に注意が必要なポイントを以下に整理します。
1. 事業計画書との整合性
事前着手届出の内容と申請時の事業計画内容が相違している場合、または整合性が確認できない場合は、事前着手届出の受理が無効となります。申請内容が変わった際は届出の再提出が必要です。
2. 見積書の有効期限管理
交付申請時に提出する見積書は「交付申請日に有効な見積書」が原則です。ただし、事前着手申請を行っている場合は、一定の条件下で有効期限切れの見積書でも問題ない場合があります。各公募要領で確認が必要です。
3. 相見積もりの要件
建物費の契約(発注)1件あたりの見積額の合計が50万円(税抜)以上の場合、2者以上の同一条件の相見積もりが必要です。事前着手承認を受けている場合も同様に相見積もりが求められます。
4. 見積依頼と発注・契約の違い
設備導入のための見積もりを依頼すること自体は問題ありません。しかし、発注書の発行・契約書の締結・前払いや手付金の支払いは「着手行為」と見なされる可能性があります。
5. 補助対象経費の起算日
起算日を確認する
令和4年12月1日以前に行われた購入契約(発注)等については、補助対象経費として認められません。各公募で設定される起算日よりも前の発注・契約は補助対象外となるため、公募要領で必ず確認してください。6. コロナ・物価高の影響の具体的な記述
事前着手申請書には、コロナウイルスまたは物価高の影響をどのように受けているかを具体的に記述する欄があります。事業計画書に記載している影響と整合した内容で、かつなぜ早期に事業を開始する必要があるのかを記載することが求められます。
申請チェックリスト
事前着手申請を行う際に確認すべき項目を以下にまとめます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 事前着手制度の有無 | 申請する補助金の公募要領で制度の有無を確認する |
| GビズIDの取得 | プライムアカウントの取得に2〜3週間かかるため早期に申請する |
| 受付期間の把握 | 事前着手申請の受付開始日・締切日を公式サイトで確認する |
| 事業計画との整合性 | 届出内容と事業計画書の内容が完全に一致していることを確認する |
| 見積書の有効期限 | 交付申請時点で有効かどうか、または事前着手の特例が適用されるかを確認する |
| 相見積もりの要件 | 建物費50万円(税抜)以上は2者以上の相見積もりを取得する |
| 不採択時のリスク対策 | 採択されない場合の資金計画を事前に検討しておく |
| 認定支援機関への相談 | 認定経営革新等支援機関と協力して書類の整合性・品質を高める |
2025〜2026年度の制度動向
事前着手制度の中心だった事業再構築補助金は、第13回公募(公募開始:2025年1月10日、募集締切:2025年3月26日)をもって終了します。以降の主要補助金の動向は以下のとおりです。
新事業進出補助金への移行
事業再構築補助金の後継として「中小企業新事業進出促進事業(新事業進出補助金)」が新設される見通しです。ただし、同補助金においても交付決定前の事業開始は補助対象外であり、事前着手制度は設けられていません。コロナ禍での緊急支援策から、継続性・独自性・収益性を重視した恒常的な中小企業支援へと転換します。
ものづくり補助金の統合再編
政府の方針により、ものづくり補助金は新事業進出補助金と統合・再編され「新事業進出・ものづくり補助金(仮称)」として一本化される方向で検討が進められています。2025年11月28日に令和7年度補正予算が閣議決定され、詳細な要件は今後順次発表される見込みです。
2026年度の主要補助金
| 補助金名 | 状況 |
|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | 継続実施予定 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 継続実施予定 |
| 中小企業成長加速化補助金 | 新設予定 |
| 新事業進出・ものづくり補助金(仮称) | ものづくり補助金と新事業進出補助金を統合予定 |
最新情報は公式サイトで確認を
各補助金の公募開始時期や詳細な要件は、令和7年度補正予算の成立後に順次発表されます。制度内容は変更される場合があるため、経済産業省・中小企業庁の公式サイトおよびミラサポplusで最新情報を確認してください。まとめ
- 補助金の原則は「交付決定後に着手」。事前着手申請は一部の補助金・特定の時期に限られた特例制度だった
- 事前着手制度の中心だった事業再構築補助金は第13回公募で終了予定。第12回公募以降は制度が原則廃止されており、現在の主要補助金に事前着手制度はない
- ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金・中小企業省力化投資補助金・新事業進出補助金はすべて事前着手不可
- 「着手」の定義は見積書の取得ではなく、発注書の発行・契約書の締結・手付金の支払いなど。この時点が交付決定前であれば補助対象外になるリスクがある
- 事前着手申請が承認されても、採択審査で不採択になれば補助金は交付されない。事前着手を行う際は不採択時の資金計画を事前に検討しておく必要がある
- GビズIDプライムアカウントは取得まで2〜3週間かかるため、申請準備の早い段階で取得を進める
- 2026年度に向けて補助金制度は大きく再編される。最新情報は経済産業省・ミラサポplusなど公式サイトで随時確認する
参考情報
本記事の作成にあたり、以下の公式情報源を参照しています。
-
事業再構築補助金事務局(公式)
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/ -
経済産業省(中小企業庁)
https://www.meti.go.jp/ -
ミラサポplus(中小企業庁)
https://mirasapo-plus.go.jp/ -
jGrants(電子申請システム)
https://www.jgrants-portal.go.jp/ -
中小企業省力化投資補助金(中小機構)
https://shoryokuka.smrj.go.jp/ -
ものづくり補助金総合サイト
https://portal.monodukuri-hojo.jp/
※本記事の情報は2026年3月時点のものです。制度内容は変更される場合があるため、申請前に必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
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