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経営者向け 失敗から学ぶ

ブロックバスター|DVDレンタル9,000店・6,000万会員の王者がNetflixに敗北するまで

ブロックバスター|DVDレンタル9,000店・6,000万会員の王者がNetflixに敗北するまで - コラム - 補助金さがすAI

2000年、シリコンバレーから飛んできた小さな郵送DVDレンタル企業の創業者が、ダラスの本社にやってきた。提案は単純だった——「5,000万ドルでうちを買い取ってほしい。代わりにあなた方のオンライン部門を運営させてほしい」。応対したのは、当時世界最大のビデオレンタルチェーンを率いるCEOジョン・アンティオコ。社内会議でこの提案は嘲笑とともに退けられたという。提案を持ちかけた男の名はリード・ヘイスティングス。彼の会社の名はNetflixだった。ピーク時に世界9,094店、会員6,000万人、年商59億ドルを誇ったブロックバスターは、それから10年後の2010年9月にChapter 11破産を申請する。「店舗ゼロ」になるまでわずか14年。本稿はDVDレンタル王者がいかに自社の収益モデルに殺されたかを追う。

1. 「金曜の夜の代名詞」——ブロックバスターの全盛期

ブロックバスターの歴史は1985年に始まる。テキサス州ダラスで、コンピューター・サービス会社の創業者だったデイビッド・クックが第1号店をオープンした。当時の米国のビデオレンタル店は個人経営の小規模店舗が中心で、品揃えはばらつきが大きく、在庫管理も手作業だった。クックは前職で培ったデータベース管理の技術を応用し、巨大な品揃え(1店舗あたり8,000本以上のVHS)とコンピューター化された在庫・会員管理システムを武器に、ビデオレンタル業界を一気に「チェーン化」した。

1987年にはウェイン・ヒュイゼンガが経営権を取得し、買収と新規出店を組み合わせた急成長戦略を加速させた。1989年には小売・メディアコングロマリットのViacomの傘下に入り(後にスピンオフ)、強力な資本基盤を得て米国全土・海外へと拡大。1990年代を通じてブロックバスターは「金曜の夜=家族や恋人とブロックバスターに行ってビデオを借りる」というアメリカ文化のアイコンとなった。

ピーク時の2004年、ブロックバスターは世界17カ国に9,094店舗を展開し、会員数は約6,000万人、年商は59億ドルに達した。従業員数は84,000人を超え、米国の小売チェーンの中でも有数の規模を誇った。「Blockbusterに行こう」という言葉は、米国の家庭の日常会話に組み込まれていた。映画スタジオにとっても、ブロックバスターは最大の流通チャネルであり、新作映画のホームビデオ売上の3分の1以上が同チェーンを経由していたとされる。

この時代のブロックバスターは盤石に見えた。米国・カナダ・英国・オーストラリア・日本など主要市場で圧倒的なシェアを握り、地方の独立系レンタル店を次々と駆逐した。ビデオレンタルという業態自体に「終わり」が来るとは、ほとんどの関係者が想像していなかった。

出典: Wikipedia「Blockbuster LLC」 / Business Insider「The rise and fall of Blockbuster」 / Investopedia「Why Did Netflix Beat Blockbuster?」

2. 運命の2000年——Netflixからの5,000万ドル買収提案を拒否

2000年、ドットコムバブルがピークを過ぎつつあった頃、サンノゼ拠点のスタートアップが資金繰りに苦しんでいた。1997年創業の郵送DVDレンタルサービス「Netflix」だ。創業者のリード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフは、月額定額制(サブスクリプション)で借り放題、延滞料金なし、自宅に郵送、というモデルを掲げていた。だが当時の会員数は数十万人規模、累計赤字も膨らんでおり、IPO計画も延期されていた。

2000年9月、ヘイスティングスとランドルフはダラスのブロックバスター本社を訪れ、CEOジョン・アンティオコに「Netflixを5,000万ドルで買収してほしい。Netflixはブロックバスターのオンライン部門として『Blockbuster.com』を運営する」という提案を行った。米Variety誌などの後日談によれば、会議室にいたブロックバスター幹部の一部は提案を聞きながら笑いをこらえていたという。当時のNetflixは赤字の小さなドットコム企業に過ぎず、ブロックバスターから見れば「買う価値のない相手」だったのだ。

提案は丁重に断られた。その後、Netflixは2002年にIPOを果たし、郵送DVDレンタル会員を年率二桁で伸ばし続けた。一方ブロックバスターは、店舗網への投資と既存収益モデルの最適化に経営資源を投じ続けた。2000年時点ですでに「DVDの郵送」「インターネット経由のオンライン注文」という芽は社内でも認識されていたが、「実店舗の補助的なチャネル」以上の位置づけは与えられなかった。

後に振り返ると、この5,000万ドルの拒否は、コーポレート史上もっとも高くついた「No」のひとつとして語られることになる。2010年代以降、Netflixの時価総額は2,000億ドルを超え、ブロックバスターを買った金額の4,000倍以上の価値を生んだ。だがこれは結果論ではない——重要なのは「なぜ気づけなかったのか」だ。

出典: Variety「Reed Hastings Reveals How Netflix Pitched Blockbuster on a Buyout」 / CNBC「Blockbuster's CEO once passed up a chance to buy Netflix for $50 million」 / Wikipedia「Blockbuster LLC」

3. 延滞料金という麻薬——「自社の利益源」が「顧客の不満」だったジレンマ

ブロックバスターの収益モデルを語るうえで欠かせないのが、レンタル延滞料金(Late Fee)だ。多くの米国メディアが繰り返し指摘してきたように、ピーク時のブロックバスターは年商の約16%、金額にして8億ドル超を延滞料金から得ていたとされる。1本のVHSやDVDを期日までに返却しないと、1日あたり1〜3ドル程度の延滞料金が加算され、会員のクレジットカードから自動的に引き落とされる仕組みだった。

顧客の体感としては、「延滞料金がいつのまにか高額になっていた」「うっかり返し忘れて、新作映画より高い延滞料金を払わされた」という不満が積み上がっていた。実はNetflixの創業エピソードとして有名な逸話がある。共同創業者リード・ヘイスティングスがブロックバスターでビデオを延滞し、40ドルの延滞料金を請求されたことが「延滞料金なし・月額定額」というビジネスモデルを思いつくきっかけだったというものだ(本人は後に「マーケティング用に少し脚色した」と認めている)。逸話の真偽はさておき、延滞料金が顧客の最大の不満だったことは事実である。

ここに、ブロックバスター経営陣が直面した深刻なジレンマがあった。延滞料金は顧客満足度を毀損する一方、年間8億ドル超を稼ぐ重要な利益源だった。「延滞料金を撤廃すれば顧客は喜ぶが、その瞬間に利益が消える」——この依存関係が、Netflix型の「延滞料金なし」モデルへの転換を躊躇させた。

2005年、ジョン・アンティオコCEOは「No More Late Fees(延滞料金廃止)」キャンペーンを打ち出した。同時に「Total Access」プログラムを導入し、Netflix同様の郵送DVDレンタルに加え、郵送で借りたDVDを実店舗で交換できる仕組みを用意した。理論上はNetflixより便利なはずだった。実際、Total Accessは2006年に200万人の会員を獲得し、Netflixの成長率を一時的に上回るほどの勢いを見せた。

しかし、延滞料金の撤廃は2億ドル規模の収益減を生み、財務体力を急速に消耗させた。同時期に大株主だったカール・アイカーンら投資家グループは「収益を毀損するTotal Accessは中止すべきだ」と強硬に主張。2007年、ジョン・アンティオコは取締役会との対立の末に退任し、後任のジム・キーズはTotal Accessの値上げと実店舗回帰を進めた。顧客はがっかりして離反し、Netflixへの流出が加速した。自社の収益源を守ろうとした判断が、結果的に唯一の対抗策を自ら壊してしまったのだ。

出典: Harvard Business Review「How Netflix Beat Blockbuster」(要約解説) / NPR「How Blockbuster Failed at Failing」 / The Motley Fool「The Real Reason Blockbuster Went Out of Business」

4. Chapter 11破産から実質店舗ゼロへ(2010〜2014年)

2007年にストリーミングを開始したNetflixは、急速に有料会員を獲得していった。2008年には会員数で初めてブロックバスターを上回り、2009年には2,000万人を突破。一方、ブロックバスターのオンライン会員「Blockbuster Online」は、2008年時点で約300万人にとどまり、新規獲得のペースは鈍化していた。実店舗の集客減少も止まらず、家賃・人件費・在庫DVDの仕入れコストが重く伸し掛かった。

2009〜2010年にかけて、ブロックバスターは負債の借り換えとリストラを繰り返したが、財務体力は限界に達した。2010年9月23日、ブロックバスターはニューヨーク連邦破産裁判所にChapter 11(連邦破産法11条)を申請した。負債総額は約9億ドル。米国全土の3,000店舗超を抱えたままの破産申請だった。

2011年4月、衛星放送大手のDISH Networkが約2.28億ドルでブロックバスターを買収した。DISHは衛星放送加入者向けにブロックバスターブランドのストリーミングサービス「Blockbuster @Home」を展開したが、Netflix・Hulu・Amazon Primeとの差別化に失敗。さらに無線通信事業への参入をにらんだ買収目的の側面もあり、実店舗事業の再建には積極的に投資されなかった。

店舗閉鎖は加速した。2013年11月、DISH Networkは米国内の直営店300店舗の閉鎖と、郵送DVDレンタル事業の終了を発表した。2014年1月、最後の直営店が閉鎖され、ブロックバスターは米国の実質的な店舗網を失った。フランチャイズ加盟店は一部営業を続けたが、それらも次々と廃業に追い込まれた。2018年7月、アラスカ州フェアバンクスとアンカレッジの店舗が閉店し、2024年現在で唯一営業を続けているのは、米国オレゴン州ベンドにある1店舗だけ。観光名所として地元コミュニティに支えられ、AirbnbやNetflixのドキュメンタリー「The Last Blockbuster」(2020年)に取り上げられたことで世界的に有名になった。

ブロックバスター破産から1年後の2011年、Netflixの加入者数は2,400万人を超え、時価総額は90億ドル超に達していた。2000年の5,000万ドル買収提案を断ったブロックバスターの判断は、わずか11年で180倍以上の時価総額差として可視化されたことになる。

出典: Reuters「Blockbuster files for bankruptcy protection」(2010年) / The New York Times「DISH Network Wins Bid for Blockbuster」(2011年) / BBC News「The last Blockbuster video store in the world」 / Wikipedia「Blockbuster LLC」

5. 中小企業経営者が学べること

ブロックバスターの失敗は「Netflixに気づくのが遅かった」という単純な話に矮小化されがちだが、内実はもっと根深い。同社は遅くとも2004〜2005年には脅威を認識しており、対抗サービス「Total Access」も投入していた。それでも勝てなかったのは、自社の収益モデルに自ら縛られていたからだ。規模を問わず経営者が陥りやすいパターンが、ここに凝縮されている。

教訓1:「儲かっている源」が「顧客を不快にしている源」なら、それは時限爆弾

延滞料金は年間8億ドル超の利益源だったが、同時に顧客の最大の不満だった。顧客が嫌がっているのに払い続けている収益源は、より良い代替案が現れた瞬間に一気に崩れる。 中小企業でも、解約手数料・分割払いの利息・最低契約期間など、「顧客は嫌がっているが収益化できている部分」がないかを点検すべきだ。それがあなたのビジネスの「延滞料金」かもしれない。

教訓2:自己破壊(カニバリゼーション)を恐れると、他社に破壊される

ブロックバスターはストリーミングと郵送DVDという「自社店舗網と競合する事業」への本気の投資を躊躇した。実店舗の売上を食う(カニバる)ことを恐れたからだ。しかし、自社がやらなければ他社がやる。そして他社にやられた場合のダメージは、自社でやった場合より遥かに大きい。 クレイトン・クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」は、まさにこのパターンを描いている。既存事業を守ろうとして次の事業の芽を潰すと、結局は両方失う。

教訓3:物言う株主・短期投資家は、変革の時間軸と相性が悪い

ブロックバスターの再生プラン「Total Access」を中断に追い込んだのは、カール・アイカーンら大株主だった。短期的な収益毀損を許容しなければ事業転換は不可能だが、株主は短期の利益回復を要求した。中小企業の場合は株主ではなく、銀行・取引先・家族など「短期の安定を求める利害関係者」がこの役割を果たす。 事業転換期には、こうしたステークホルダーに「なぜ短期の赤字を許容する必要があるか」を説得し続ける覚悟が要る。

教訓4:「店舗網」「機械設備」「在庫」など固定資産は、市場が消えれば負債に変わる

ブロックバスターの9,000店舗網は最大の強みであり、最大の重荷でもあった。家賃・人件費・在庫DVD——固定費は店舗が減っても急には減らない。市場の前提が変わったとき、競争優位を生んでいた固定資産が、撤退を遅らせる重しに変わる。 投資判断では「この資産は10年後にも価値を生むか」を必ず問うべきだ。短期の競争優位のためだけに固定資産を積み上げるのは、未来の自分への借金になる。

出典: Harvard Business Review「Why Blockbuster Failed」 / NPR「How Blockbuster Failed at Failing」

6. 既存事業の縮小・新事業転換に使える補助金

ブロックバスターが直面した「既存収益モデルの賞味期限切れ」「デジタル代替サービスへの転換投資」「店舗網の縮小と財務体力の確保」は、日本のレンタル業・小売業・サービス業の多くが直面する課題と重なる。国は、こうした転換に取り組む中小企業を後押しする補助金制度を用意している。

制度名 補助上限・内容 活用場面
新事業進出補助金 最大9,000万円(大幅賃上げ特例適用時) 店舗型事業からEC・サブスク型サービスへの業態転換
事業再構築補助金 類型により最大7,000万円〜(公募回により変動) 市場縮小事業からの撤退と新市場進出を同時に進めるケース
ものづくり補助金 最大1,250万円〜2,500万円(規模により異なる) 新サービス開発・店舗オペレーションのデジタル化
IT導入補助金 最大450万円 サブスク管理・会員管理・配信基盤・ECサイトの導入
中小企業省力化投資補助金 最大1,500万円(カタログ注文型) 店舗オペレーションの自動化・無人化投資

ブロックバスターの教訓を踏まえると、特に注目すべきは「新事業進出補助金」「IT導入補助金」だ。

新事業進出補助金は、既存事業から大きく踏み出して新分野に進出する場合に、設備投資・システム投資・人件費の一部などを幅広く補助する制度だ。レンタル・販売中心の店舗型ビジネスから、サブスクリプション型・オンライン配信型のビジネスへ転換する際に活用できる。「本業が縮小しきる前に次の柱を育てる」——それがブロックバスターに欠けていた点であり、自己破壊を恐れずに先手を打てるかどうかが、生き残りの分岐点だ。

IT導入補助金は、会員管理・課金管理・配信基盤・ECサイトといった、サブスク型ビジネスの土台となるシステム投資に活用できる。月額課金モデルへの移行は、適切なITインフラなしには成り立たない。「サブスクをやろう」と決断してから半年で動かせる体制を作るには、補助金を活用した先行投資が現実的な選択肢になる。

また、市場縮小期に既存事業を整理しながら新事業を立ち上げる場合は、事業再構築補助金とものづくり補助金の使い分けが鍵になる。事業再構築補助金は「既存事業の大幅な縮小・撤退と新分野進出をセットで行う」場合に有効で、ものづくり補助金は「既存事業の延長線上で新サービスや業務改革を進める」場合に向いている。撤退と進出の速度・規模に応じて、適切な制度を選びたい。

出典: 中小企業庁 事業再構築補助金 / 中小企業庁 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 / 中小企業庁 IT導入補助金

まとめ:ブロックバスターが教えてくれる「儲かっている収益源こそ最大のリスク」

  • ブロックバスターは1985年テキサス州ダラスで創業、ピーク時に世界9,094店・会員6,000万人・年商59億ドルを誇ったDVDレンタルチェーン
  • 2000年、Netflix創業者リード・ヘイスティングスからの5,000万ドル買収提案を当時のCEOジョン・アンティオコらが拒否
  • 年商の約16%、8億ドル超を占めた延滞料金収入への依存が、Netflix型「延滞料金なし」モデルへの転換を遅らせた
  • 2005年に延滞料金廃止・Total Access開始で巻き返しを図るも、株主からの収益圧力でCEOが退任、転換戦略は失速
  • 2010年9月23日にChapter 11破産(負債9億ドル)、2011年DISH Networkが2.28億ドルで買収、2014年1月に米国直営店が事実上ゼロに
  • 2024年現在、米オレゴン州ベンドの1店舗のみが観光名所として営業を続ける
  • 教訓:顧客を不快にさせている収益源は時限爆弾・自己破壊を恐れると他社に破壊される・短期の利害関係者と変革の時間軸を擦り合わせる・固定資産は市場が消えれば負債に変わる
  • 新事業進出補助金・IT導入補助金を活用し、サブスク・配信型ビジネスへの転換を財務余力のあるうちに進めることが重要

参考資料
Wikipedia「Blockbuster LLC」
Business Insider「The rise and fall of Blockbuster」
Variety「Reed Hastings Reveals How Netflix Pitched Blockbuster on a Buyout」
CNBC「Blockbuster's CEO once passed up a chance to buy Netflix for $50 million」
Harvard Business Review「Why Blockbuster Failed」
NPR「How Blockbuster Failed at Failing」
Reuters「Blockbuster files for bankruptcy protection」(2010年)
The New York Times「DISH Network Wins Bid for Blockbuster」(2011年)
BBC News「The last Blockbuster video store in the world」
Investopedia「Why Did Netflix Beat Blockbuster?」

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この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

X-HACK Inc. 代表取締役。システムコンサルタントとして中小企業の基幹システム構築・業務設計に携わったのち、自ら起業。小規模ビジネスの立ち上げから黒字化までを複数回経験し、採用・資金調達・補助金申請の実務にも精通。「補助金さがすAI」の開発・運営を通じて、経営者が本当に必要とする情報を現場目線で発信しています。

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