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経営者向け 失敗から学ぶ

白元|「ホッカイロ」を生んだ老舗日用品メーカーが押し込み販売と粉飾経理で民事再生に至った理由

白元|「ホッカイロ」を生んだ老舗日用品メーカーが押し込み販売と粉飾経理で民事再生に至った理由 - コラム - 補助金さがすAI

1923年(大正12年)の創業から90年余り。「ホッカイロ」「ミセスロイド」「アイスノン」——日本の家庭に欠かせない日用品を生み出し続けた老舗メーカー・白元が、2014年5月29日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は255億円。創業家の相次ぐ経営判断の失敗と、内部深くまで蔓延した粉飾経理が、90年余りの歴史を持つ企業を一気に崩壊させた。規模は違えど、その失敗パターンは中小企業経営者にとっても身近な警告を含んでいる。

1. 白元の栄光——「ホッカイロ」が生んだ日用品帝国

1923年(大正12年)、鎌田泉が防虫剤・防臭剤の製造販売を始めた「鎌田商会」が白元の原点だ。当初は防虫剤を主軸に事業を展開し、1950年に株式会社へ改組。1953年には蛍光染料「白元」を発売し、これが社名の由来となった。

1965年には「アイスノン」(保冷枕)を発売した。夏の暑さを和らげる冷却グッズとして爆発的な人気を博し、「アイスノン」という名前はやがてカテゴリーの代名詞として定着した。1972年に社名を株式会社白元に変更し、1980年には使い捨てカイロ「ホッカイロ」を発売する。これが白元の最大のヒット商品となった。

1988年には衣類用防虫剤「ミセスロイド」を発売。防虫剤・保冷剤・使い捨てカイロという季節商品を巧みに組み合わせ、年間を通じて安定した売り上げを維持する独自のビジネスモデルを構築した。花王やライオンといった日用品大手の「隙間」を突き、中堅メーカーとして確固たる地位を築いていた。

2010年3月期の連結売上高は332億3,700万円。従業員400名超の中堅日用品メーカーとして、「ホッカイロ」を知らない日本人はいないといわれるほど、白元のブランドは家庭に浸透していた。

防虫剤・保冷剤・カイロという季節性の異なる3カテゴリーを持ち、在庫リスクを分散しながら年間売上を安定させる——このビジネスモデル自体は優秀だった。しかし、その成功体験が後の判断を歪めていくことになる。

出典: Wikipedia 白元 / GIGAZINE ホッカイロ・アイスノン・ミセスロイドで有名な「白元」が255億円の負債で事業再建へ (2014)

2. 市場縮小と無謀な多角化——防虫剤市場でエステーに完敗

白元の転落が始まったのは、主力の防虫剤市場での競争激化だ。エステーが積極的なマーケティングと新製品投入でシェアを拡大し、白元は徐々に追いつめられていった。花王・ライオンといった大手との価格競争も激しさを増し、防虫剤という成熟した市場での利益率は年々低下した。

こうした状況を打開しようと、3代目社長はM&A(合併・買収)による多角化路線を選択した。「防虫剤メーカー」から「総合日用品メーカー」への脱皮を目指し、医療衛生品・入浴剤メーカーを傘下に収める買収を繰り返した。しかし、買収した事業の多くは白元の既存事業とのシナジーに乏しく、管理コストだけが膨らんだ。M&A管理コストの増大と押し込み販売の修正計上が重なり、2006年3月期には68億円という創業以来最大規模の赤字を計上した。

保冷剤部門も想定外の苦境に陥った。猛暑の年には在庫が追いつかず機会損失が生じ、寒い夏には在庫過剰が収益を圧迫した。天候という制御できない要因に依存した商材を抱えていることは、リスク管理の観点から大きな弱点だった。加えて、保冷剤市場への新規参入企業が増加し、価格競争が一段と激化した。

「多角化」と「分散投資」は似て非なるものだ。自社の強みや既存チャネルを活かせる隣接領域への展開なら分散になるが、強みのない分野への参入はリスクを分散するのではなく、むしろ増大させる。白元が医療衛生品・入浴剤へ踏み込んだのは後者だった。

売上高のピークは2010年3月期の332億円だったが、競争激化と多角化コストが重なり、その後は下落に転じる。2013年3月期には304億円まで落ち込み、3億6,900万円の赤字を計上した。外からは分かりにくい内部崩壊が、着実に進行していた。

出典: Business Journal 白元破たん、老舗日用品メーカーはどこで誤った? (2014) / 東京商工リサーチ 2014年5月度 こうして倒産した

3. 粉飾経理と押し込み販売——内部崩壊の実態

4代目社長に就任した鎌田真氏は、慶應義塾大学経済学部卒・ハーバードMBA取得という華やかな学歴を持つ経営者だった。しかし彼が主導した経営手法は、帳簿の上だけで業績を「改善」する粉飾経理と、販売店に対して過剰な商品を押しつける「押し込み販売」だった。

「押し込み販売」とは、期末に販売店へ大量の商品を送りつけ、売上を前倒しで計上する手法だ。短期的には決算書上の売上高が膨らむが、翌期には返品や仕入れ抑制で売上が落ち込み、実態との乖離が拡大し続ける。この手法が複数年にわたって続けられた結果、実態の財務状況を正確に把握できない状態が常態化した。

こうした不透明な会計処理の象徴が、2011年のあずさ監査法人による任期途中での辞任だ。監査法人が監査継続を拒否するという異例の事態は、白元の経理状況がいかに深刻だったかを示している。後に事業再生の専門家集団・経営共創基盤(IGPI)が再建支援に乗り出したものの、「経理処理があまりにずさんだったため、手を引いた」と述べており、専門家でさえ実態把握が困難なほどの状況だった。

さらに深刻な問題が追い打ちをかけた。メディアに報じられた社長の私的な交際関係をきっかけに、首都圏の主要銀行が白元との取引から距離を置くようになり、資金調達の選択肢が大幅に狭まった。財務の問題が経営者個人の問題と絡み合うことで、組織としての信頼が一気に失われていったのだ。

外部の専門家が次々に離れ、銀行も距離を置く——この状況が示すのは、「組織の内部だけで問題を抱え込むことの危険性」だ。財務の透明性と外部専門家との信頼関係こそが、危機の早期発見と対処を可能にする。白元はそのどちらも失っていた。

出典: Foresight 白元「民事再生」の「奇っ怪」な舞台裏 / Business Journal 白元破たん、老舗日用品メーカーはどこで誤った? (2014)

4. ホッカイロを売り、住友化学の援助を受け、それでも民事再生へ(2013〜2014年)

追い詰められた白元は、2013年5月、住友化学に対して第三者割当増資を実施した。住友化学が19億円を引き受け、白元株式の19.5%を取得する筆頭株主となった。「日用品と化学の連携強化」という名目での資本提携だったが、実態は資金繰り支援の性格が強かった。

2014年1月、白元は「ホッカイロ」の国内販売事業を医薬品メーカーの興和に譲渡した。ブランドを切り売りすることで当面の資金を確保しようとしたのだ。しかし後に明らかになったのは、この取引で「売掛金や在庫を担保に譲渡代金の一部を前借りしていた」という事実だ。将来の資金を前倒しで使う形での資金繰りは、財務悪化をさらに加速させた。

2014年3月、白元は取引金融機関を集め、粉飾決算の修正を開示した。2014年3月期決算は62億円の最終赤字を計上する見通しとなり、自己資本がほぼゼロになることが判明。返済ストップを要請せざるを得なかった。住友化学が引き受けた19億円はわずか1年で全損となった。

金融機関との再建協議は決裂し、2014年5月29日、白元は東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額255億円。鎌田真社長は引責辞任した。創業91年、老舗日用品メーカーとしての歴史がここで事実上終わった。

2014年7月31日、アース製薬が民事再生スポンサーに選定された。カイロ事業(すでに興和へ売却済み)を除く全事業と従業員347名が、75億円で完全子会社「白元アース株式会社」に移管された。ミセスロイド・アイスノン・入浴剤などの事業は「白元アース」として存続し、2016年9月30日、株式会社白元の法人格は消滅した。なお「ホッカイロ」は現在も興和が国内販売を継続しており、ブランドそのものは生き続けている。

出典: 日本経済新聞 「ミセスロイド」の白元、民事再生法の適用申請 (2014) / 日本経済新聞 興和、白元「ホッカイロ」の国内販売事業を買収 (2014) / 流通ニュース アース製薬/白元の事業、75億円で譲受 (2014) / Wikipedia 白元アース

5. 中小企業経営者が学べること

白元の失敗は大企業に特有の問題ではない。規模に関係なく、同じパターンに陥る危険性は中小企業にも存在する。

教訓1:「強みのない分野への多角化」はリスク分散ではなくリスク拡大

防虫剤・保冷剤・カイロという季節商品の組み合わせが白元の強みだった。しかしそれを捨てて「総合日用品メーカー」を目指したM&Aが財務を悪化させた。中小企業が多角化を検討する際は、「既存の強み・顧客・チャネルを活かせるか」という問いを最初に立てるべきだ。答えが「ノー」なら、それは多角化ではなく冒険だ。

教訓2:「押し込み販売」はいつか崩壊する

期末に売上を膨らませる押し込み販売は、翌期の穴埋めのためにさらなる押し込みを必要とする。中小企業でも、年度末の売上目標達成のために過度な条件引き下げや返品前提の出荷を行うことがある。短期の数字を守るために長期の信頼を損なうこの行為は、じわじわと企業を蝕む。一時的な売上より、持続可能なキャッシュフローを重視すべきだ。

教訓3:監査法人・外部専門家が「逃げたら」危険信号

あずさ監査法人の任期途中辞任は、外部から見た白元の財務状況の深刻さを示していた。中小企業においても、顧問税理士や顧問弁護士が「この決算処理はできない」と言うことがある。そのとき、外部専門家の意見を尊重する謙虚さが企業を守る。「専門家が引いた」ことを軽く見ると、次は銀行が引く。

教訓4:資産売却・借入の「前借り」は問題解決にならない

住友化学への増資要請、ホッカイロ売却代金の前借り——これらは資金繰りの応急処置にすぎなかった。本質的な経営改善が伴わない資金調達は、返済義務という形でさらなるプレッシャーをかける。資金が底をついてから動くのではなく、財務に黄色信号が灯った段階での早期支援機関への相談が重要だ。

出典: Business Journal 破たんの白元、争奪戦の舞台裏 (2014) / リスク管理情報研究所 倒産分析レポート 白元

6. 事業再生・経営改善に使える補助金・支援制度

白元の経緯——市場縮小、無理な多角化、資金繰り悪化——は、現在の中小企業が直面しうる経営課題とも重なる。国はこうした状況に対応するための支援制度を複数用意している。

制度名 補助上限・内容 活用場面
新事業進出補助金(事業再構築補助金の後継) 最大7,000万円(中小企業) 新分野展開・業態転換・事業再編
ものづくり補助金 最大1,250万円(従業員規模により異なる) 製品開発・設備投資・生産性向上
小規模事業者持続化補助金 最大250万円(特例活用時) 販路開拓・マーケティング投資
早期経営改善計画策定支援 専門家費用の2/3補助(計画策定費用上限50万円) 資金繰り悪化の早期段階での改善計画策定
経営改善計画策定支援(405事業) 専門家費用の2/3補助(上限200万円) 金融機関との再生計画協議・抜本的改善

白元が最も必要としていたのは、実は下の2つの「経営改善」系の支援制度だ。

早期経営改善計画策定支援」は、資金繰り悪化や借入過多の問題が顕在化する前の段階で、認定支援機関(税理士・中小企業診断士など)とともに経営改善計画を作成するための費用を補助する制度だ。白元の場合、監査法人が辞任した2011年時点でこの制度を活用し、外部の視点で財務実態を把握できていれば、粉飾の連鎖を断ち切れた可能性がある。

経営改善計画策定支援(405事業)」は、金融機関との再生計画協議が必要な段階で活用できる制度だ。認定支援機関が経営改善計画の策定を支援し、費用の3分の2(最大200万円)が補助される。民事再生という最終手段の前に、こうした制度を通じた「軟着陸」の選択肢を検討することが重要だ。

市場縮小という構造的な問題に直面している事業者には、「新事業進出補助金」(事業再構築補助金の後継制度)が有効だ。白元が防虫剤市場の縮小という現実に直面したとき、「強みのある技術・チャネルを活かして、どの新市場に転換するか」を資金面で支援する制度が存在した。ただし、補助金はあくまで事業計画の実行を後押しするものであり、計画の妥当性こそが採否を分ける。「補助金を取るための事業計画」ではなく「本気で取り組む事業計画」を先に描くことが大前提だ。

出典: 中小企業庁 経営改善計画策定支援(早期経営改善計画) / 中小企業庁 新事業進出補助金(事業再構築補助金の後継) / 中小企業庁 ものづくり補助金

まとめ:白元が教える「粉飾と押し込みが企業を滅ぼす」法則

  • 1923年創業の白元は「ホッカイロ」「ミセスロイド」「アイスノン」で知られる老舗日用品メーカー。ピーク売上高は332億円(2010年3月期)
  • 防虫剤市場での競争激化を受け、強みのない分野へのM&Aを繰り返す多角化路線が財務を悪化させた
  • 4代目社長による「押し込み販売」と粉飾経理が常態化し、あずさ監査法人が任期途中で辞任するほどの状態に
  • 2013年に住友化学への増資(19億円)、2014年1月にホッカイロを興和へ売却したが、経営改善につながらず
  • 2014年5月29日に民事再生法を申請(負債255億円)。アース製薬が75億円で全事業を取得し「白元アース」として継続
  • 教訓:強みのない多角化・短期数字のための押し込み販売・財務の不透明化が企業を滅ぼす三点セット
  • 経営悪化の初期段階での早期経営改善計画策定支援・405事業の活用が、民事再生を回避する最後の砦となりうる

参考資料
Wikipedia「白元」
Wikipedia「白元アース」
日本経済新聞「『ミセスロイド』の白元、民事再生法の適用申請」(2014年5月)
日本経済新聞「興和、白元『ホッカイロ』の国内販売事業を買収」(2014年1月)
GIGAZINE「ホッカイロ・アイスノン・ミセスロイドで有名な『白元』が255億円の負債で事業再建へ」(2014年5月)
Business Journal「白元破たん、老舗日用品メーカーはどこで誤った? 3代目社長の暴走と、ずさんな財務」(2014年6月)
Foresight「白元『民事再生』の『奇っ怪』な舞台裏」(2014年)
流通ニュース「アース製薬/白元の事業、75億円で譲受」(2014年7月)
東京商工リサーチ「2014年5月度 こうして倒産した」
・中小企業庁「経営改善計画策定支援」「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」各制度案内

この記事を書いた人

松田信介
松田 信介 Shinsuke Matsuda

X-HACK Inc. 代表取締役 / PARKLoT CTO

Microsoft for Startups Founders Hub 採択

X-HACK Inc. 代表取締役。システムコンサルタントとして中小企業の基幹システム構築・業務設計に携わったのち、自ら起業。小規模ビジネスの立ち上げから黒字化までを複数回経験し、採用・資金調達・補助金申請の実務にも精通。「補助金さがすAI」の開発・運営を通じて、経営者が本当に必要とする情報を現場目線で発信しています。

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