メルカリ山田進太郎|世界一周で「捨てられるモノ」に気づいた男が日本の消費文化を変えた
2013年7月、一つのフリマアプリがApp Storeに登場しました。名前はメルカリ。ラテン語で「商いする」を意味するこのアプリは、リリースからわずか3年で日本のフリマアプリ市場を席巻し、2018年には東証マザーズ(現グロース市場)に上場。時価総額は一時7,000億円を超えました。創業者の山田進太郎は、世界一周旅行中に目にした光景から「中古品は恥ずかしい」という日本の消費文化そのものを変えようとした人物です。
1. 連続起業家・山田進太郎という人物
山田進太郎は1977年、愛知県瀬戸市生まれ。早稲田大学教育学部に進学し、在学中の1999年に楽天のインターンとして三木谷浩史の下で働いた経験が、後のキャリアを決定づけます。当時の楽天はまだ社員30人ほどのベンチャー企業。インターネットが世界を変える——その確信を、20代の山田は肌で感じ取りました。
2001年、大学卒業後にウノウ株式会社を設立。写真共有サービス「フォト蔵」やソーシャルゲーム「まちつく!」を開発します。特に「まちつく!」は累計300万人以上のユーザーを獲得し、モバイルソーシャルゲームの先駆けとなりました。
2010年、ウノウを米国ソーシャルゲーム大手のZyngaに売却。売却額は非公開ですが、数十億円規模と報じられています。30代前半にして、山田はすでに「成功した起業家」の仲間入りを果たしていました。普通なら、次の事業を探すか、投資家に転じるか、あるいは引退するかという選択肢が浮かぶ場面です。
しかし山田が選んだのは、世界一周旅行でした。
(出典: Wikipedia「山田進太郎」、メルカリ公式サイト)
2. 世界一周で見た「モノが循環する世界」
2012年、山田は約半年をかけて世界を巡りました。南米、アフリカ、東南アジア——先進国の外に出ると、モノに対する価値観がまるで違いました。
途上国の市場では、先進国から流れてきた中古の電化製品や衣類が当たり前のように売買されていました。壊れたスマートフォンでさえ、部品を取り出して修理し、再び使う。「まだ使えるモノが捨てられている」という日本の現実と、「モノが自然に循環している」途上国のリアルが、鮮烈なコントラストをなしていました。
山田は後にこう語っています。
「日本では年間に何兆円分ものモノが使われずに捨てられている。テクノロジーを使えば、個人間で簡単にモノを売り買いできる仕組みを作れるはずだ」
— 山田進太郎(各種インタビューより)
当時、日本にもヤフオク!(Yahoo!オークション)という個人間取引の巨人は存在しました。しかしヤフオクはPC前提の設計で、出品にはカテゴリ選択、価格設定、オークション期間の指定など煩雑な手続きが必要でした。スマートフォンが急速に普及する中、「スマホで写真を撮って、すぐ出品できる」仕組みはまだ誰も作っていなかった。
世界一周の旅で見た光景と、スマートフォンの爆発的普及。この二つが交差した瞬間、山田の頭の中で「メルカリ」の原型が生まれました。帰国した山田は、すぐに動き始めます。
3. 「中古品は恥ずかしい」を壊す——メルカリ創業
2013年2月、山田は株式会社メルカリを設立。共同創業者には、ミクシィやザイオンで経験を積んだエンジニアの富島寛と鶴田浩之が名を連ねました。3人で六本木のマンションの一室に籠もり、5か月で最初のプロダクトを完成させます。
2013年7月、iOS版をリリース。翌8月にはAndroid版を投入。山田が徹底的にこだわったのは、出品の手軽さでした。スマホで写真を撮り、商品名と価格を入力するだけ。カテゴリは自動判定。オークション形式ではなくフリマ形式(固定価格)を採用し、「いつ売れるかわからない」というストレスを排除しました。
しかし、最大の壁はテクノロジーではなかった。「中古品を売り買いすることへの心理的抵抗」です。当時の日本では、「メルカリで買い物をしている」と言えば、「お金がないのか」と思われかねない空気がありました。新品を買うのが当たり前、中古は恥ずかしい——そんな消費文化が根深く存在していたのです。
山田はこの壁を、テレビCMという「力技」で突破しようとしました。2014年、創業わずか1年で大規模なテレビCMを展開。スタートアップが黎明期にテレビCMを打つのは当時としては異例の判断で、投資家からも懐疑的な声がありました。しかし山田は動じなかった。
「フリマアプリはネットワーク効果がすべて。出品者がいなければ買い手が来ないし、買い手がいなければ出品者も来ない。この鶏と卵の問題を一気に解決するには、圧倒的な認知度を取るしかない」
— 山田進太郎
結果は山田の読み通りでした。CMの効果でダウンロード数が急増し、出品数も連動して増加。ネットワーク効果の正のスパイラルが回り始め、先行していた競合のLINEモール、フリル(現ラクマ)を一気に引き離しました。2014年末にはダウンロード数1,000万を突破。後発であったにもかかわらず、わずか1年半で市場のトップに立ったのです。
(出典: Wikipedia「メルカリ」、メルカリ公式サイト)
4. 米国進出という「無謀な賭け」
日本市場を制した山田が次に見据えたのは、米国市場でした。2014年9月、サンフランシスコに米国法人「Mercari, Inc.」を設立。日本のスタートアップがシリコンバレーのど真ん中にオフィスを構え、eBayやCraigslistが支配するC2C市場に殴り込みをかける——周囲からは無謀だと言われました。
実際、山田自身も米国市場の厳しさを痛感することになります。日本で成功した「シンプルな出品体験」は、米国でもウケた。しかし物流と決済のインフラが日本とまるで違いました。米国は国土が広く、配送コストが高い。返品率も日本の比ではない。さらに、eBayという30年近い歴史を持つ巨人が立ちはだかっていました。
米国メルカリは長らく赤字が続きました。2017年度の米国事業の営業損失は約100億円。日本事業の利益を米国事業の赤字が食いつぶす構造に、「撤退すべきだ」という声は社内外で上がり続けました。
しかし山田は撤退しなかった。
「メルカリのミッションは『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』。日本だけで完結するなら、このミッションは嘘になる」
— 山田進太郎
この判断は、単なる意地ではありませんでした。山田は米国チームのリーダーを何度も交代させ、マーケティング戦略を繰り返し修正。2019年にはCEO直轄で米国事業の立て直しに着手し、配送料の最適化とAIによるレコメンデーションを導入しました。結果、米国の月間アクティブユーザーは徐々に回復し、2021年にはメルカリUSの累計ダウンロード数が5,000万を超えました。
世界一周旅行で見た「モノが循環する世界」を、日本だけでなくグローバルに実現する——その原点に立ち返り続けたからこそ、山田は撤退の誘惑に負けなかったのです。
(出典: Wikipedia「メルカリ」、メルカリIR情報)
5. 上場、そして「消費文化の変革者」へ
2018年6月19日、メルカリは東証マザーズに上場。初値は公開価格3,000円に対して5,000円をつけ、時価総額は約7,172億円。日本のスタートアップとして、当時最大級のIPOでした。
上場によって得た資金を、山田は三つの方向に振り向けます。
- 米国事業への継続投資 — グローバルマーケットプレイスの実現
- メルペイの展開 — メルカリの売上金をそのまま使えるスマホ決済
- 新規事業 — メルカリShops(法人・個人の出店)、暗号資産サービスなど
特にメルペイは、メルカリのエコシステムを「売り買い」から「日常の決済」に拡張する戦略的な一手でした。メルカリで服を売った売上金で、コンビニのコーヒーを買う。モノの循環がお金の循環につながる世界観は、山田が世界一周で感じた「循環する経済」の延長線上にあります。
しかし、上場後の道も平坦ではありませんでした。2022年以降、世界的な金融引き締めの影響でグロース株は軒並み売られ、メルカリの株価は上場来高値の約7,390円(2021年11月)から、2024年には1,500円台まで下落。時価総額は一時ピークの3分の1以下に沈みました。
米国事業の赤字縮小は進んだものの、黒字化までの道筋は依然不透明。さらに日本国内でも、楽天ラクマやPayPayフリマ(現Yahoo!フリマ)との競争が激化し、「メルカリ一強」の構図に揺らぎが見え始めていました。
それでも山田は動揺しなかった。2023年以降、コスト最適化とAIへの積極投資を同時に推進。2024年6月期にはグループ全体で連結営業黒字を達成し、累計出品数は30億品を突破。フリマアプリという概念を日本に根付かせただけでなく、「捨てるより売る」という行動変容を日本社会に浸透させた功績は揺るぎません。
(出典: Wikipedia「メルカリ」、メルカリIR情報)
6. 山田進太郎の「異常な情熱」の正体
山田進太郎の情熱は、小川賢太郎の「牛丼への信仰」やサム・ウォルトンの「出店への執念」とは、少し質が違います。山田の情熱の対象は、特定の商品ではなく「モノが循環する仕組みそのもの」でした。
世界一周で目にした途上国の市場、先進国で捨てられ続けるモノ、スマートフォンという新しいインフラ——これらを結びつけ、「まだ使えるモノを、必要な人に届ける」という一点に、すべてのリソースを集中させました。
この情熱が最も鮮明に表れたのが、三つの局面です。
| テレビCMへの全賭け | 創業1年で数十億円のCM投資。「ネットワーク効果を一気に回す」という確信に基づく判断 |
|---|---|
| 米国事業の継続 | 年間100億円超の赤字を出しながら撤退せず。「世界的なマーケットプレイス」の旗を降ろさなかった |
| 株価暴落後の改革 | 時価総額3分の1以下でも方針を変えず、コスト最適化とAI投資を同時推進して黒字化達成 |
いずれも、合理的に考えれば「撤退」や「縮小」が選択肢に入る局面でした。しかし山田は、自分が作ろうとしている「循環型の世界」への確信を手放さなかった。
行動経済学の文脈で言えば、これは「コミットメントのエスカレーション」のリスクを孕む行動です。しかし山田の場合、闇雲に突き進んだわけではありません。テレビCMは精緻なダウンロード単価の計算に基づいていたし、米国事業もチームとマーケティング戦略を何度も刷新しました。「大きな方向は変えないが、戦術は柔軟に変える」——これが、山田の情熱を「暴走」ではなく「推進力」にした鍵です。
もう一つ特筆すべきは、山田の社会貢献への姿勢です。2021年、私財を投じて山田進太郎D&I財団を設立。STEM(理工系)分野で学ぶ女性への奨学金プログラムを運営しています。メルカリの「限りある資源を循環させる」という思想は、事業の枠を超えて山田個人の行動原理にもなっているのです。
7. スタートアップ・新規事業に使える補助金
山田進太郎は、ウノウの売却資金という「軍資金」を持って創業しました。しかし、すべての起業家がそうした幸運に恵まれるわけではありません。スマホアプリ一つで世界を変えたいと考える創業者を、国の補助金制度は後押ししています。
小規模事業者持続化補助金(創業型)
| 補助上限額 | 最大250万円 |
|---|---|
| 対象者 | 創業後1年以内の小規模事業者(創業前でも可) |
| 対象経費 | 広告宣伝費、ウェブサイト作成費、展示会出展費用など |
| 直近の締切 | 一般型 第19回: 2026年4月30日 |
(出典: 中小企業庁 公募要領)
IT導入補助金
| 補助上限額 | 最大450万円(通常枠) |
|---|---|
| 対象 | 中小企業・小規模事業者のIT化投資 |
| 活用例 | ECサイト構築、在庫管理システム、顧客管理ツール導入 |
(出典: IT導入補助金 公式サイト)
ものづくり補助金
| 補助上限額 | 750万円〜4,000万円(グローバル枠) |
|---|---|
| 対象 | 中小企業・小規模事業者・個人事業主・スタートアップ |
| 活用例 | 革新的サービス開発、試作品開発、生産プロセス改善 |
(出典: 創業手帳「ものづくり補助金」)
まとめ
山田進太郎がメルカリで実現しようとしたのは、単なるフリマアプリの開発ではありません。「まだ使えるモノが捨てられる世界」を、「必要な人に届く世界」に変えること——その一点に、すべてを賭けました。
世界一周で見た途上国の市場が原点。創業1年でのテレビCM全賭け、年間100億円の赤字を出しながらの米国事業継続、株価暴落後の改革断行。いずれも、「循環する世界を創る」という確信がなければ、とうに撤退していたはずの判断です。
あなたの事業は、何を「循環」させようとしていますか? モノ、サービス、情報、人材——対象は違っても、「これを届けたい」という情熱は共通です。その情熱を事業計画書に落とし込み、補助金制度を活用することで、最初の一歩を踏み出すことができます。
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